桜暦(さくらごよみ)

セピア調の五線紙の色

奏でる記憶の

鮮やかさ


その匂いのなつかしさ

その一音一音が

震えて弾けシャボン玉


揺れる虹色

陽のひかり


教室の窓辺

手を振る君の愛おしさ

窓枠に手をかけ

何か叫んでる

聞こえない声


聞き返せば良かったのに

彼女の声は(そして)

彼女の声も(綴じておく)

そんな彼女のポートレート

昔の断片

切り取っては音のない

画面のそれは

お気に入り


誰かが聞いた

誰なのそれ、と

昔の女房さ

学生時代は

昔のこと


相手は黙って頷いた

昔のことか

去年のことだ

ヒグラシが鳴いていたし

俺も独りで泣いていた

晩夏の明けやらぬ

空の色

何一つとて変わらない

朝が来る


「そんなつもりで生きていた」

俺は毎日が

そんなはずだと信じてた


めくらないカレンダーは

去年のままに

ずっとこのまま日付に添えて

彼女が記したメッセージ

その忘備録

くせのある彼女の筆跡が

懐かしい

毎年その日がやってくる

それが命日だなんて信じない


その想い出の夏は

最後の記憶と君がいた


呼んでいるのか君の声

日焼けした彼女の声も


その時の俺には聞こえないよ

制服の君が呼んでいる

ただ一度きりの

ひとたびが繰り返すのは


桜の春のつぼみの日

しおりに綴じるは

来ることのない

花弁はなびらの夢


滲んでかすむは私の愛する

「少女の面影」

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