第8話 興味が湧く

 ニュース映像を見ている時、アズキが弱々しく声を上げた。


「あぁ、店が壊されていく」


 アズキの目が潤んでいた。思わず、カヌレが声をかけた。


「どうしたの、アズキさん」

「・・・今、テレビで壊されている建物、移民のアタシが新市街でゲノブ爺に拾ってもらって住み込みで働いてた場所。ゲノブガレージがあったのよ。立ち退きによって離れたとしても、壊されるのを見るのは辛いね」


 トトンズは、テレビのチャンネルを変えた。


「いいの、トトンズさん。これはどうしようもないこと。・・・コレおかわりもらえますか?」

「ちょっと待ってて。それと1杯くらい飲んでいくかい?」

「はい、ガツンとくる爆発系のお酒を」

「それはダメ。今日は、軽めのやつにしときな」

「はぁ~ぃ」


 トトンズは厨房に入っていった。


「アズキさんって、新市街の人だったんですね」

「そうだよ」

「新市街の人は取っつきにくい人が多くて、旧市街での態度が横柄な所をよく見るから、アズキさんは別の地域から来たって思ってた」

「それはね、ゲノブ爺がアタシを新市街の一般的な人っぽく変な染まり方をしないようにさせてたのかも。昔の話を聞かせたり、音楽はジャンル問わず教えてくれたり。新市街に住んで慣れ始めた時も新しいものだけを見るなって、よく言ってたよ」

「周りの人も、そのゲノブ爺って人の影響受けてたの?」

「いや、むしろ逆。新しいものを競い合ってたしアンドロイドも多いから、人だけの生活じゃなかった。人がアンドロイドを選んで生活してる世帯もあるから、温故知新な考えを持つ人が少ない」


 ピリリリリ


 アズキの携帯端末が鳴った。カヌレに軽く会釈して電話に出る。


「ぁ~、オレだ。今何してんだ?」

「・・・旅行中です」

「え~、それならニュース映像見てねぇのか。ゲノブガレージの解体風景が映ってたぞ。」

「そうですか、モマゥルさんはショックじゃないんですか?」

「何言ってんだ、先に進むんだよ。オレたちは、ちゃんと起業した。こっちに来ねぇのか、面白くなるぞ」

「どういう意味か分からないです」


 ブツッ


 電話が切られた。

 先程まで沈み込んでいたアズキの表情が一瞬で変わり、眼光鋭く怒りに満ち溢れている。


「はーぃ、軽めのお酒とおかわりね」


 トトンズが置いたお酒を一気に煽るアズキ。


「アズキさん、そりゃ酒が泣くわ」

「すみません、とても不快な電話があったので。兄弟子がニュース見てて解体される風景を喜んでいたんです。それに、また一緒に働かないか、と打診してきたことが腹立たしくて」

「厄介な人だねぇ。旧市街にいるとは言わず『旅行中』って返すのはお見事だよ」


 カヌレも大きくうなずいた。

 アズキは、しっかり栄養補給をして、店に戻った。そして、シャワーを浴びながら、悔しくて泣いた。


 翌日、アズキは起床予定の時間より大幅に寝過ごした。心身共に疲労があったため、こういう時もある。


「やってしまった」


 と誰に咎められるわけでもないのに、昨日の余韻からか反省と気落ちをしている。


 ピリリリリ


 携帯端末が鳴った。知らない番号。


「はい、もしもし」

「こちらは宅配サービスデス。近くまで来ておりますが配達伺ってもよろしいデスカ?」

「分かりました、お願いします」


 6輪バギーのパーツが届くようだ。軽く身支度して、店入口の鍵を開けておく。

 あまり待たずにトラックが到着したので、入口を開け外に出てみる。トラックの運転席にはアンドロイドがおり、荷台の方から柵で囲われた台座に足が逆関節型でくっついた小型荷物専用ロボットが荷物を乗せトコトコと歩み寄ってきた。


「こんにちは。お荷物が3箱分お届けに参りまシタ。室内までお持ち致しまショウ」


 小型荷物専用ロボットは、しゃがみこんで荷物を薄いベルトコンベアを出し、荷物を器用に滑りだして置いた。


「あなたたちは新市街にいる宅配アンドロイドとは違うのね」

「そうデスネ。新市街と旧市街との検問が管轄の区切りがあり、我々は旧市街しか知りマセン。以上で配達終わりマス。またのご利用よろしくお願いしマス」

「ありがとね、お疲れ様~」


 宅配アンドロイドたちは、次の場所に向かっていった。


「アンドロイドも新旧市街で違うんだ。新市街のアンドロイドは会話が短文だったような気がする」


 アズキはアンドロイドの性質違いに驚いた。そして、届いた荷物を確認して、6輪バギーの修理にとりかかった。

 全く動かせない状況ではなかったが、バッテリーやブレーキ等、消耗する部分を代用品で交換修理を済ませBASE-OSで各パーツを認識させ、システムチェックを行なう。電子部品交換は、まだ知識や情報不足なので今回は交換せず現状のままで動作させたため、システムチェックには時間がかかってしまう。

 散らかった箱等を片付けしていると、店の入口扉が開いた。


「こんにちは~、ぱおんの娘です~」


 カヌレがガレージを訪ねてきた。


「あら、こんにちは。どうしたの?」

「話に聞いてた昔の車メンテナンスってやつを見学に来ました」

「そうなの。というか平日だから学校じゃないの?」

「自主休校」

「おやおや」


 カヌレは6輪バギーのシステム画面を眺めている。


「あ~、これがネットで出てたやつか。昔のものなのに、なんか新しく見える。クールだね」

「え、ネットにあるの?検索したけど今一つしっくりくる情報なかったよ」

「検索キーワードにもよるけど、マニアがやってる同好会だったり、あえて図書館内ネットワークやアバターネットの方が見つかりやすい」

「図書館って外からの接続不可よね。あとアバターネットって何?」

「学校から図書館データベースには接続できちゃう。アバターネットは専用器具使って、ネット内に自分の分身を作って動けるネット空間があるんですよ。元々は、どんな人もアンドロイドも同じネット空間で外見や存在の垣根を超えた交流を持ちましょうって試験的な場所で、ライブイベントや舞台、会議から次第に自己主張の場になった。でも、アンドロイドの過激な思想を発言するものが増えだしたので専用器具が発売中止になっちゃって、当時買うことができた人たちで小規模にやってるみたい」

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