第7話 夢中になりすぎ

 アズキは、ようやくステーキを食べられる。すでにカットしてあるミディアムレアな肉を頬張ると、久しぶりに食べた天然物な肉質、肉汁、適度な脂質に、ん゛んっと唸った。そりゃビールも合うでしょ、これ。

 付け合せのマッシュポテトを食べていると、カヌレが近づいてきた。


「さっきの話って何なんですか?」

「旧型とか旧式って言われるいろんなの車両に操縦席を取り替えられる車両がある。それを制御するソフトウェアがあって、アタシは触れる機会がなかったから、これから手探りで調べていくのよ」

「なんか楽しそう」

「学校は技術系なの?」

「ううん、違う。つまんない授業ばかり。物足りなくてね」


 そこのトトンズが割り込んできた。


「カヌレ、つまらないっていうなよ。授業ってそういうもんだろ」

「やらされてる感がイヤなの」

「また学校のネットワーク見てんのか?」

「もう見飽きた」

「こいつは・・・。アズキさん聞いてよ。うちの娘、授業中に学校のネットワーク入り込んで、成績書き換えたんだよ」

「お、なかなかやるね」

「そうでもないよ。教師たちのユーザー名とパスワードが一緒なんだもん」


 トトンズとアズキは大笑いした。


「でも、次やるなよ。謹慎処分より重く、無期停学くらいなるみたいだからな」

「へ~ぃ」


 酔い始めたアズキがニヤニヤしている。


「いいねぇ、面白いねぇ。楽しまないとね」


 カヌレがニンマリと微笑み返した。


 それから、アズキはコツコツとバギー修理にいそしんだ。ガレージの設置物も有効に使って着脱式操縦席を吊り上げ、バギー自体の構造、以前どのような修理が行われていたのか?ゲノブ爺から学んだことが昔の車両だとどう違ってくるのか知りたかった。

 相変わらず集中しすぎて、食事だけでなく水分を取るのも忘れていた。軽くふらついてしまい、ガレージ1階の小さなキッチンで顔を洗い、水をがぶ飲みした。

 元々の知識と技術で、ある程度修理が進み、交換部品を発注し、今すぐ出来ることが止まってしまった。


「部品が来ないと出来ないってことは、知識を得る時間に使えるってことだ」


 アズキは、新市街から持ってきたゲノブガレージ著の本を読み返し、気になる言葉はコンピュータを使い、ネットワークから検索をかけ調べ続けた。


 やはり軍事目的がきっかけで作られた着脱式操縦席の車両機体は、専用の吊り上げ機械が無くても鍛え上げている兵士3~4人で持ち上げ、積み替えることが可能だったそうだ。それは、兵士や弾倉運搬負傷兵も運ぶし、偵察用バイクといった物も存在した。

 また、あらゆる環境にも耐えられるようBASE-OSがロムカセットの形状をしていたのは、ディスクタイプだと破損が多かったようだ。

 大戦が終結し、軍用品が一般に流出・転売してから、汎用性の高さと用途の多さから着脱式は広まっていった。しかし、世の中が平和になり、汎用性より専門性として、走行に特化し安全である一般的な車が大戦前のように生産が戻り、デザインも着脱式に多い無骨な外観より流線形や滑らかな曲線の外観が利用者に受けたため、衰退していった。

 現在では一部の旧式車両愛好家やネット動画で細々と語り継がれる程度。


「一般的に知られてるのは、こういうものか。マニアがいるってことは、もっと車両があるんだろう。ただ、どこで調べるのがいいのかな」


 また、アズキは体がふらついていた。


「アタシも、そろそろちゃんと燃料入れないと体がもたないや。えへへ」


 以前はゲノブがアズキと食事を作ったり食べに行ったりしていたため、食生活はきちんとしていたが、アズキ自身は、あまり食にこだわりがない。食べられる時に何でもいいから食す。ここ最近のネット検索調査に集中していたため、ほぼパンかコーヒーを思い出した時に食べる程度だった。


 久しぶりに、酒家ぱおんに顔を出す。


「こんばんわ、空いてますか?」

「いらっしゃい、ってどうしたの、すごいやつれて」

「え、そんな違います?」

「鏡で見てないの?げっそりしてるよ」


 トトンズがかなり心配している表情を見て、アズキはようやく自身の根を詰めすぎたことに気付いた。


「病み上がりなのか?今日はお客さん少ないから、特別メニュー作ってあげる」

「いえ、病気ではないんです。調べ物に取り掛かっていたら、しっかりとは食べてなくて」

「・・・ある意味、病気かもな。スタミナ系よりも消化にいいやつにしようか。今日はお酒無しだ」

「ちょっと飲みたい」

「胃に何か入れてから考えな」


 アズキはいつものカウンター角の席に座り、料理を待った。この店に来る時は、誰か客がいて、わいわい賑やかだが、今日に限って誰もいない。不思議なもんだと、普段は消してあるテレビを眺める。


「はい、お待ちどう。ショウガとネギ、根菜類の入った雑炊だ。まずは様子見てみてよ」

「いただきます」


 久しぶりに温かい食事を体に取り込む。単にあり合わせで作ったわけではなく、他料理にも使う鳥や野菜で取った元となるスープで作られた雑炊は、心身共に満たされるようだ。


「あ、アズキさんだ。いらっしゃいませ。なんか疲れてますね」

「ご無沙汰です~。調べ物に集中しすぎたのよ」


 他客が来ないので、テレビニュースを見ながら世間話をしながら食事をしていると、新しいニュースが伝えられた。


「続きまして、新市街再開発の話題です。新市街の中でも古い街並みであった工業地帯の解体工事が始まりました。ここ一帯は今後のアンドロイド生産拠点となる予定で大規模な範囲で区画整理対象となっております。整地作業が行われた後は、工事用アンドロイドが導入され24時間体制での再開発事業が展開されます。では、現場の映像をご覧ください」


 放送された映像は、かなり大胆なものだった。装甲の厚い除雪車と砕氷船の合わさったような大型解体用破壊機械で建物をなぎ倒しながら進んでいき、途中建物から火が出ても同時に粉塵を抑える放水が常に行われているため、火災にならなかった。また、後ろからはリサイクル工場に運ぶため廃材をどんどん集めている。

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