第6話 初めての着脱式車両
アズキとレッカー運転手が6輪バギーを押して店内運び入れる。そして、レッカー車は去っていった。
「タイヤはちゃんと回るんですね。それすら無理なのかと」
「これな、充電式モーター車でゲノブが修理してたから、通常より加速も良い」
「さっきの話の続きですけど、ゲノブ爺はこの旧市街店舗から離れたんですか?」
「ん、それ聞いてないのか?」
「はい、この卵型の着脱式操縦席とBASE-OSの話はよく聞いてたんですけど」
「あのな~、ゲノブの弟子たちにそそのかされたんだよ。『もう着脱式の時代ではなく、統合最新型だ』とか言われてな。酒飲みながら愚痴ってたな~『よく言うよ、着脱式の整備に憧れて弟子を志願したのに』って」
「弟子たち・・・名前分かりますか?」
「名前までは覚えてないが、兄弟でもないが男二人で派手な感じがしたな」
「おそらく、アタシの兄弟子たちでしょう。今回の立ち退きをきっかけに起業するって言ってたので」
「そうなのか、嬢ちゃんも苦労してたんだな。ところで嬢ちゃんは、どっち派なんだ?」
「アタシは、着脱式を知らないので何とも言えません。この6輪バギーを触ってみて特徴を知りたいですね」
「この店内に資料とか、そのまま残ってんじゃないのかな?ゲノブは物持ち良いやつだから」
リブオは帰っていった。旧市街に店舗を残していたのは、ゲノブの未練なのかな?とアズキは考えながら6輪バギー表面の拭き掃除を始めた。
「結局、動くかどうか確認するためには、充電しなきゃ始まらないわけよね」
ある程度拭き終えて、バッテリー部分をロック解除して引き抜いてみたが、サビは多いし、何年物か分からないので正直使いたくない。2階には、そういう機材のようなものはなかったから、あるなら1階。
「まだ、裏口開けてなかった。この着脱式にこだわるんなら使えそうなものがあったりして~」
アズキは、1階勝手口をゆっくり開けてみた。
「わぉ」
すんごい蜘蛛の巣。ほうきを取り出し、ぶんぶん振り回して蜘蛛の巣を絡め取る。近づいて見えたのは狭い倉庫にケーブル類が入ったコンテナボックスと何種類かのタイヤとホイールのセットがあった。さすがにバッテリーを外に長期保管はしないだろうと解釈する。
運べそうなコンテナを店内に持ち込み、バッテリー差込口と同じ形状のものを探す。
「いや・・・これ全部バッテリー用じゃん。汚れ落として大事にしなきゃ」
持ち込んだ中身は全て充電ケーブルで室内コンセントに差し込んでバッテリー充電可能になる。念のため、消火器を近くにおいてバッテリーにケーブルを接続する。・・・バッテリー表面のランプが点灯し充電容量もパーセント表示されている。元々の用途が軍事目的だったからか、かなり丈夫な構造なのだろう。
充電を待つ間、操縦席を確認しよう。ゆっくり座ってみると、しっとりと沈み込むシートに少し小さめのハンドル。操縦席が移動されるため、シフトレバーではなくハンドル奥にパドルシフトがついている。車体によっては、シフトチェンジが必要ないこともあるけど、大事だよな。メーター類は車体の方についている。
そこに気になるものがあった。ハンドル奥上部に箱型の装置がある。固定されているのでストッパーを外して引き抜いてみた。B5用紙くらいの幅で、少し台形の差込の形。箱の裏面を見てみた。小さく表記してある[BASE-OS]の文字。
「このロムカセットっぽいのがBASE-OSなのか。へ~、これで車両や機械の認識や制御やるんだ」
初めての車両にあれこれ触ってみる。気付けば充電が満タンになっていた。バッテリーを元の位置に差し込んでまた消火器を近くに置き、起動ボタンを押した。
キーンという高い音がし、メーターモニターに起動確認が次々に表示される。あまり待たずにスピードメーターに切り替わった。
「なんだ、動くじゃん、このコ。イヒヒヒヒ」
思わず変な笑い方をするアズキ。笑うのは久しぶりのことだった。そして、整備をやってきた者として、車両を動くように蘇らせるのは興奮すること。活力が湧き出すようでもある。
時間を忘れ、確認作業をしていると、お腹が鳴って現実を思い出す。
「あ、また食べるの忘れてた。それに夕方だよ。うん、食べいくか!」
手の油汚れをしっかり洗い落とし、作業服のままであるが、酒家ぱおん目指して商店街に歩き出していた。街並みも少しずつ慣れてきて、ネオンサインも派手さよりデザイン性に目がいくようになっている。
「こんばんわ~。作業着のままですがいいですか?」
「いらっしゃい。アズキさんどうぞ~。ウチの店は、服装気にせず仕事帰りに気軽に入れる店だよ」
テーブル席から離れたカウンターの端っこに座る。
「今日は何にする?久しぶりに生肉が入ってるよ。合成肉じゃないんだ。ステーキがお勧め」
「お勧めされたら食べないと、もったいない。ステーキとビールで」
「いいねぇ、いいねぇ!そうこなくっちゃ。ちょっと待ってて」
トトンズは厨房に向かった。それを確認して、グラス片手にリブオが近づいてくる。
「ども、こんばんわ」
「いや~嬢ちゃん、あの車どうだい?動きそう?」
「あれ丈夫ですね。接点磨いたくらいでモーターは回りました。その他足回りは、まだこれからです」
「そうだろ、元は戦地で走り回ってたから頑丈だ」
しばらく話し込んでいると、若い女性が料理を運んできた。
「お待ちどうで~す」
「お、娘っこ、手伝ってんな。嬢ちゃん、この娘っこはトトンズの娘だよ」
「カヌレって言います、いらっしゃいませ」
「ども、最近越してきたものです。アズキです」
「この嬢ちゃんがな、ガレージで整備やってんだよ」
「まだ正式に決めてないですけどね。あの着脱式やBASE-OSの仕組みを調べないと」
「だから作業着なんすね」
「ついでだ、娘っこ、向こうのテーブルにガツンと強い酒をグラスで頼む」
「はぁ~ぃ」
リブオは千鳥足でテーブル席の飲み仲間の元へ戻っていった。
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