第9話 当時を知る老人たち

 アズキとカヌレは、コンピュータ接続しアバターネットに繋がながるための専用器具について話していた。


「カヌレちゃんは、その専用器具とやらは持ってるの?」

「まだ小さい時だから知りもしなくて。旧市街の電気街にならあるかもです」

「売ってあるの?」

「旧市街には、専門店街それぞれの隠れた店があって闇市を不定期にやってて。専用器具って言ってるのも皆好き勝手に名前付けちゃって、アバターギア、バーチャルギア、アバターネット接続端末ってまだ他にもある。そうだ、時間作って行ってみますか、闇市」

「そうね、案内してくれる?」

「了解です」


 話をしていると、6輪バギーのシステムチェックが完了した。なので、BASE-OSを再起動させ車両の各パーツを再認識させる。あまり待たずにスピードメーター画面に"走行可能"という表示がされた。


「カヌレちゃん、今から走行テストするから、事故ったら救急車呼んでねっ」

「そんな笑顔で物騒なこと言わないでください」


 アズキは搬入口シャッターを開け、念のためヘルメットをして操縦席フレームの中に体を入り込ませる。4点式シートベルトを装着して、ゆっくりとバギーを道路に向けて運転する。モーターはとても静かで、回転音が微かに聞こえる程度。


「店前の道路を行ったり来たりしてみるよ。交通量が少ないので試運転にはちょうど良いと思うから」

「はーい、安全運転で」


 アズキは、アクセルをゆっくり踏んでみた。滑らかな滑り出し。スピード表示も速度のみや速度と回転数の円形表示と切り替えが可能で、運転中も時間差なく切り替えられる。

 店から200mほど離れた所まで来ていた。


「さて、加速テストってやつ行ってみましょうか!」


 しっかり座り直して、アクセルを徐々に踏んでいく。フィィィーンと高速回転するモーター音が響き、時速50kmに達するのはあっという間だった。あまり無理せず、折り返して店に戻ってくる。


「加速がすごい」

「いや~、ちゃんと走れるよ。よくある6輪バギーよりちょっと車体が長いし、貨物タイプだから速さよりも力強さかと思ったんだけどね、走る走る。ただ、フレーム構造だから、風圧がすごい。作業服つなぎとヘルメットだから耐えられるけど、雨風避けパーツを取り付けないとダメだね」

「そんな速いの?荷台に乗っても大丈夫?」

「カヌレちゃんが飛ばされない程度の速度で試そうか」


 カヌレは荷台に乗り込み、アズキは自転車並みの速度でバギーを走らせた。気付けば、二人共気兼ねなく会話が出来るようになっており、年の差は10歳ほどあるが友人のような間柄になっていた。

 走行テストを続けていると、店の前に人影があることに気付く。ゆっくりと走らせ近づくと、リブオとラントイが立っていた。


「おぉ~、あの6輪バギーが走っておる!やったな嬢ちゃん」

「やっぱり頑丈ですよ、この車両は。安全性を考えて交換した部分はありますが、大半が元のままです」

「昔を思い出すな~、リブオ」

「そうだな、ラントイちゃん」


 老人たちの目が何かを思い出し、輝いている。そこへアズキが状況を話した。


「この操縦席も着脱を何度か繰り返してますが、しっかり認識しています。システムも問題なしです。気になるとしたら、運転する時の雨風を避けるのが無理って感じです」


 それに対し、リブオが答える。


「自宅倉庫にな、フロントガラスと屋根とか一体になってるのがあるんだが、この運転席だとフレームが邪魔して取り付けられないんじゃ。どうしたもんかな~って思ってたらゲノブが新市街に行っちゃったから、そのままになってな」


 そこへラントイが言った。


「そりゃ、元々バギー用の操縦席じゃないからな、この形。その頑丈な外殻フレームを外したら、一般車みたいな屋根が取り付けられる」

「え゛っ!」


 アズキとリブオは、同じタイミングで声を上げた。着脱式操縦席はそもそも操縦者を守るフレームがしっかりあってその形状が卵型と言われている由縁と思っていたが、車両機体に沿った操縦席の形があると言うこと。

 アズキはゲノブガレージ著の冊子を何度も読んでいたし、ネット検索でも大まかな概要は分かっていたがが、操縦席の詳細はなかったので外殻フレームを外すべきではないと考えていた。その手があったか!という発想は目から鱗。


「え~、では、このフレームを標準装備した車両機体ってどんなものなんです?」


 アズキが質問した。


「正確な事は分からん。大戦に徴兵されてないから現場を見てないし、資料が残ってないからな。想像するにオフロード用4輪バギーくらいかな?」


 ラントイが答える。

 そして、リブオが提案をした。


「あのな嬢ちゃん。ワシらを荷台に乗せて、このまま自宅倉庫に運んでくれ。それから屋根部分を持ち帰ってくれ」

「分かりました。カヌレちゃんは荷運びの帰りに途中まで乗せてくから、そこから帰んなさいな」


 6輪バギーの荷台にカヌレ・リブオ・ラントイが乗って走り出した。ゆっくりと旧市街の通りを走っていくと人々の注目を浴びる。はしゃぐ老人たちに対して、恥ずかしくて小さくなるカヌレ。

 バスターミナルが見える通り近くにリブオの自宅と倉庫がある。多少詳しそうなラントイを頼りに、6輪バギーと関連する物がないか探すため、倉庫に入る。

 両扉を外側に開き、固定する。リブオ所有のいろんなものが目に入るが、何に使うのかよく分からない。長い棒、妙な柄の球体といったオブジェのようなものが多いようだ。


「リブオ、バギーがあった場所ってどこだ?」

「入ってすぐの左側だ。ラントイの目なら発見できそうだな」


 勝手知ったる他人の倉庫、ラントイは一目で気付いた。


「その右の壁に立てかけてあるやつだ」

「ん、逆位置に置いてたのか」


 言われるままにリブオは右の壁にある物体を確認した。


「おーぃ、嬢ちゃん。これだよ、フロントガラス割れてないから、このままいけるぞ~」


 4人で6輪バギーの運転席上部パーツを荷台に載せた。


「もっと時間かかるかと思ったら、あっさりでしたね」

「嬢ちゃん、ラントイに頼むと一瞬で終わる。すごいだろ、ラントイ」

「リブオさんの倉庫では?」

「へぇっ、ワシは物持ちがいいだけ。場所はよう知らん」

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