第4話 大掃除

 旧市街の鍵と地図を頼りに訪ねた建物。埃を被っているから、当然掃除から始めなければならない。


 2階に荷物を置いて、窓を開け、換気から始める。ベランダは無いが十分な大きさの窓から、いつ振りか分からない新鮮な空気を取り込む。元々、カビ臭さがないのも救いだろう。

 吸引力のありそうな大きな掃除機を使って、ひとまず床の埃を吸い取る。それから、家具や棚の上を拭いて再度、掃除機をかけよう。

 ゲノブガレージと同様、音楽ディスク再生が可能な装置も置いてある。試しに電源を入れると動きそうだ。


「音楽を流しながら、掃除しますか」


 まだ聞いたことのない音楽ディスクを入れると、古典的な音だけどとても軽快なテンポで耳に心地いい。アンティークな家具に囲まれたカフェで流れているようで昔の映画で聴いたことあるような音の響き。

 長い髪をひとまとめにし、音楽に乗って掃除を続ける。たまにステップ踏んでみたり、舞台の音楽劇のように楽しんでいると外から声が聞こえた。


「おーぃ、嬢ちゃんよ~」


 窓から外を見れば、先程のリブオが呼んでいる。


「はーい、今行きます」


 1階に下りてみると、リブオが差し入れを持ってきてくれた。


「ゲノブに世話になったからな、今日のような事もご縁ってやつだ。コレ食べなよ」

「あ、お昼を食べてなかったので頂きます」

「ごきげんな音楽が流れてるな。外にも少し聴こえてきてて、昔を思い出すよ」

「すみません、気分良く掃除したかったもので。音小さくします」

「いいんだよ、昼間だし構わんよ。あ~、それとよ、片付いたらウチの車見てくれねぇかな?」

「なんです?」

「ゲノブに修理依頼しようと待ってた小さなトラックがあるんだ。あれから年数経って全く動かないからよ、引き取ってくれねぇか?修理して動いたんなら、嬢ちゃんが好きに使えばいい」

「もしダメだったら?」

「そん時は、街外れにある鉄クズ屋を呼びつけて運んでもらいな。この2~3日うちにレッカー車でこの店まで運ぶよう手配するから」

「分かりました。1階も掃除を急ぎます」


 リブオは去っていった。ていよく廃棄物を押し付けられた感じもするが、次の仕事を何にするか考えられなかったし、これまでやってきた整備の腕試しかな。どんな車か楽しみにしますか。

 2階に戻り、ソファーに座ってリブオに頂いたサンドイッチとリンゴを食べる。流れる音楽を耳にしながら部屋を改めて見渡す。


「食器が残してあるんだ~。状態見て、使えるやつは洗わないと」

「部屋の壁・・・色塗るか、壁紙貼って明るくするか。今の風合い、適度に古い状態もいいんだけどな」


 そんな事を考えながら食べ終え、また掃除に戻る。どうにか寝転がっても大丈夫なくらいにキレイになったが、しかし、次に待っているのが水回りや冷蔵庫掃除。見た目汚れていないので、酒瓶しか入っていなかったのではと疑う。


「ん~、洗剤とか買いに行きますか。というか、もう夕方じゃん」


 戸締まりをして、商店が並ぶ通りに向かう。モノレールの駅の方に向かい2区画分進んで左に曲がると商店が密集している通りにつながる。日暮れも近いのでたくさんの看板に灯りがついている。新市街とは違う下品なほど派手なネオンサイン。ジジッと音を発しながら、街灯と変わらないくらい明るく感じ、その通りを行き交う人々は

皆笑顔で賑わっている。

 キョロキョロと看板を見ていると、声をかけられる。


「お姉さ~ん、店探してるならウチ寄ってってよ。食事も出来るよ~」

「あ、いえ、日用品と寝具を買える店を探してて」

「それなら、あの赤い屋根の店だね。寝具は、その2軒先。良かったら、帰りにどうぞ。『酒家ぱおん』って言うんで」

「は~い、ありがとうございます」


 やっぱり地元民に聞けば、店は見つかるよなぁ。日用品の店では、持参した袋に入る最低限必要な洗剤等を買い、閉店間際の寝具店でシーツを買った。今日は掃除してて出遅れたので、また明るいうちに来ないと。

 どうにか買い物が出来たので、通りを戻ると、先程の酒家ぱおんの前を通る。先程の呼び込みしていた男性が店の中から声をかけてきた。


「どう、良いの買えた?」

「今必要な分を買いました」

「それなら、軽く飲んでかない?まだお客さん少ないから席も空いてるよ」


 そこへアズキに声をかける者がいた。


「お、嬢ちゃんじゃないか。飲んでいけよ~」

「リブオさん、こちら知ってんの?」

「そう、ゲノブの空き家に来てんだよ、なぁ」

「はい、今日越してきたばかりで」

「あら、お疲れだね。食事だけでもOKだよ」


 リブオが千鳥足で近づいてきた。


「あのな嬢ちゃん、このマスターはトトンズって言うんだ。盛り付けはひどいが旨い料理と良い酒出してくれるんだ」

「リブゥ~オさん、あんた料理頼まねぇだろ」

「・・・量が多いんだよ。爺さんにあの量はさぁ」

「旨いんだろぉ~ぅ?」


 すごすごとリブオは席に戻る。


「お試しに日替わりメニューはどうかな?今日は、肉と豆のシチュー。パンは付いてる。お酒もいかが?」

「では、そのメニューでお願いします」

「ちょっと待ってね」


 酒家ぱおんという名のお店。入り口には小さなの象が鼻を持ち上げたイラストがあり、店内は暖色系で明るく、丁度よい広さ。カウンターといくつかのテーブル席。そんな確認をしていると料理が届いた。


「お待たせ~、ゆっくり食べてって。パンのおかわりあるからね」

「ありがとうございます」


 しっかりとした量の煮込まれた豆と肉がゴロゴロ入っており、パンとワインのセットとなっている。ここ数日、ドタバタしていたので久しぶりに温かい食事を取ったように思う。とても染み入るし、目が潤む。あれこれ余計な言葉を並べなくても、うまいものはうまい。また、この料理にはワインがよく合う。

 アズキは、しっかり味わいながら食事を楽しんだ。もう少しこの雰囲気も味わいたいが、また来ればいい。


「すみませ~ん、ごちそうさまでした」

「もう帰るのかい?」

「まだまだやること溜まってるんですよ」

「それなら、また来てね」

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