第3話 バス移動

 旧市街に向かうには、バスで主要道路を通り、乗り換えでモノレールを利用する。まだ早い時間なので同乗客も少なく、トランクケースも車内持ち込みで乗り込める。


「ご利用ありがとうございます。このバスは旧市街バスターミナル直行便です。新市街と旧市街のアンドロイド検問で確認作業があるため、所要時間は2時間を予定しております」


 なんだよ、アンドロイド検問って。あぁ、先日のニュースでやってたね。新旧の市街で往来出来ないはずのアンドロイドが無許可で移動しただよな。家出アンドロイドですか。


 バスが動き出し、新市街を通り抜ける。やはり、人の姿というよりアンドロイドの姿が目立つ。

 こういう街の景色を眺めてながら、2つに分かれている新市街の接続部分、アンドロイド検問所である橋に到着した。

 バス内に専門の係官が入ってくる。


「アンドロイドは、一旦バスから降りるように。人間はそのまま座っているように」


 このバスは3体のアンドロイドが乗っていたようで、降りていった。

 人間の確認は爆発物等所有していないか、探知機での確認作業となる。


「はい、確認します。あなた荷物これだけ?」

「えぇ、このふたつです」

「ピピッ、はいOK。はい、次の方~」


 バス乗車目的とか移動先を聞かれるかと思ったら、そういうのは関係ないよね。

 でもさ、改めて思う、荷物少ないなぁ。給料はちゃんと出てたし、休みもあったから買い物とかしてたんだけど、ほとんど作業服つなぎで、普段着もTシャツにジーンズ。あ、働きだして間もない頃、スカート履いてたな。優男相手へ本気になったら、5股してたのが発覚した話。アタシ4番目だったな。まだ言葉おぼつかなかったし。・・・何を思い出してんだか。


 再びバスは移動を始め、旧市街へ主要道路をひた走る。旧市街の街並みが見えてくると、左側にオフィスビルが立ち並んでおり、新市街が近未来なら、旧市街は現代的な建造物といった印象。もっと古臭いものかと思っていたが、これはこれで夜景が楽しめそうだ。

 オフィスビル群の先には大きな公園があり、新市街にはない自然を感じられる。その横にはバスターミナルがある。


「ご乗車お疲れ様でした。旧市街バスターミナルに到着です」


 検問がなければ、程よいバスツアーという時間で到着した。バスターミナルの混雑も人流れに乗りながら外へ出る。


「やっぱり違うね」


 旧市街のバスターミナル周辺は、圧倒的に人が多い。アンドロイドは見た感じ2~3割で、慌ただしくないというか、急かされていない人の流れ。観光もしたいが、やはり目的地にまず到着するのが最善か。

 バスターミナル前のモノレール駅に歩いていき、程よい古さの駅構内に入り、路線図を見る。


「ゲノブ爺の地図だと~、ぁ、乗り換えて終点まで行くのか」


 モノレールに乗り込み、また街並みを眺める。見た感じ、住宅街や店が並ぶ。しかし、高い建物が無いわけではなく新旧混在する風景。ただ、新市街に比べると看板が非常に多い。ごちゃごちゃして、うるさい感じ。

 時間通りに到着し、駅に到着。終点の駅名が旧市街駅。分かりやすい名前だけど、一つ前が、ネオ旧市街駅。ネーミングセンスというものが問われるよ。

 街並みには、新市街と同様に公衆端末が各所に置いてある。多機能携帯端末が使えない分、困った時に調べ物が出来る。


「え~、住所入力?音声認識は故障中ですか・・・」


 知りたい住所を入力して、地図を印刷する。


「へ~、道順を色線で示してくれるのね」


 案内通りに進んでいく。この辺は、年代を感じる建物が多い。良く言えば、味のある景色。やはり看板が多い。15分ほど歩くと少し広い通りに出て、左に曲がる。空き家?空き店舗?が並んでいて、寂しい感じ。


「あ、あった。ここかぁ。ぁ~」


 看板とネオンサインがある元店舗でシャッターが閉まっている。ゲノブガレージの前身って思える整備工場。

 2つあるシャッターの右側、店の入口であろう小さめシャッターを持ち上げると、錆びついたガギギギという音と共に半分くらい開いた。ガラス扉から内部が見える。そして、鍵を差し込み回してみた。


 カチャ カラカラカラカラ


 引き戸を滑らせ、ゆっくり中に入る。


「誰かいますか~?」


 誰もいないと思うが、念のため声をかける。


「空き家だから、誰もいないだろ」


 後ろから、声がした。


「ギャァァァァァァァァァァァァ!」

「んだよ、叫ぶんじゃねぇー」

「突然声がしたら大声出るでしょ!」

「シャッターが開く音したんだから、泥棒かと思ってきたんだよ!」


 アズキの後ろに、老人男性が立っていた。


「娘さん、何しに来たんだ?」

「ゲノブ爺さんから鍵を預かってたので、その場所を見に来たんです」

「なんだ、ゲノブの孫か?は~、えぇ~」

「いえ、孫ではないです。住み込み従業員で形見として鍵を受け取ってまして」

「何!ゲノブ亡くなったのか。・・・ゲノブが新市街に店出すってな、随分前だ」

「ゲノブ爺さんをご存知なんですね」

「あぁ、ワシは近所の者だ。リブオと言う」

「アタシはアズキと言います。ここに住むよう遺言にありまして」

「ここにか?掃除がんばりなよ」


 そう言うと、リブオは去っていった。


「突然怖ぇよ。鍵閉めとこ」


 アズキは内鍵を締め、舞い上がる埃を吸わないようタオルで口元を押さえ、店内を見ることにした。何年使われていないか分からないが、埃はあるけど整頓されていないわけではないようだ。工具の並び方や家具の配置は新市街のお店と似ている。おそらく、定期的にゲノブ爺はここに来ていたのだろう。入口から奥に進むと小さなキッチンと流し台がある。いろんな虫がいることを想定していたが見当たらず。1階トイレも確認し、2階へ階段で上がる。

 2階に上がって驚いた。ビニールで家具やベッドは埃被らぬよう覆ってあり、2階キッチン周りも問題なく使えそう。冷蔵庫はご丁寧にコンセントが抜いてあるので、カビ取り掃除が必要だろう。


「これなら今日中に2階ベッド周りだけでも掃除終わりそうだな」

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