第29話 勝たん男
「お前の女装も見てみたかったがな」
俺は、呑んでいけ、働いていけ、泊まっていけと俺を離さない正男を振り切って、ブチ犬宅のダイニングで鍋をつついていた。
捜査員たちからの報告もたいした収穫はなく、教会から借りているビルの一室を
ということは、暴力団とは知らなかったとシラを切られれば、それ以上、追求する手立てがない。
ま、犯人像もままならない中で、どんな人物を探せばよいのかわからないんだから仕方がないな。
唯一、まともな報告はサンタの兄貴・
とはいっても逮捕されたのは家宅侵入と窃盗で一件だけ。しかし、十代の頃からヤンチャなやつだったようだ。
補導歴が山ほど出てきた。
無免許バイクでの信号無視に自転車窃盗、加えて万引き。
学校も行かず、悪い奴らとつるんで遊び回っていたようだ。
その中で俺が目を引いたのは補導された
未成年者が補導されれば保護者に引き取りの連絡をする。その名前が複数だったのだ。
ざっと数えても五人はいる。しかし、住所は皆、同じだ。
いったい、どうなってんだ?
俺は箸を止め、その住所をスマートフォンで検索してみた。
「先輩、ご飯中ですよ」
おふくろみたいに
「え、児童養護施設⁈」
「“
「ということは
「双子だからな。当然、そうなるだろうな」
「施設出身者とは報告にあがってきていません!」
まあ、そう
少年課の補導記録を見て、引き渡し保護者の住所をチェックするやつなんぞ、俺くらいなんだろう。それに、サンタ会長はまだ容疑者ではない。
死んだ三太九郎の出生を調べなかったのは落ち度だったがな。
「さて、これは凶とでるか吉とでるか……」
「先輩? どういう意味ですか?」
「施設職員なら親と違って年齢が若い。双子を覚えている人物に会える可能性は高いが“仕事”として双子に接している分、ヤンチャな兄がどちらかなんて見分けがつかないかもしれない」
「そうか。親ならば大人になった双子の兄がどちらかなんて特定はたやすいでしょうが、職員となると……」
「正男や神父ていどの印象しか持っていないかもな」
「体に特徴があれば良いのですが……あ! 先輩!
ブチ犬は、その指紋とサンタ会長の指紋が一致すれば、会長が“
俺は「バーカ」と言ってから、よくフーフーした白菜を口に放り込んだ。
「どんな理由で指紋の提出を頼むんだよ。今のところ、なんの容疑もかかってないんだぞ? 入れ替わろうとしている理由を突き止めてからじゃないと警戒されて手を火傷したとか言って、逃げられるぞ」
ブチ犬は、サンタ認定証が失効されない限り、サンタ協会の収入は確保されるのので、それが目的ではないかと言い返してきた。
俺は繰り返す。
「バーカ。なら三太九郎が死んで一番、損をするのは会長だってことになるな? 完全に容疑者から外すのか?」
ブチ犬はううっと言い
そうだよ。三太九郎が死んで得をする人間なんかいない。質素な生活で家に金目のものはなかった。
すると、恨みを持つ人物の仕業……しかし、餓死させるとは気の長い犯人だ。拘束も監禁もされていない状況で相手を餓死させる方法は?
俺は補導記録の補導された場所に目を留めた。
新宿。
これもそれも新宿。逮捕された先も新宿署。二人が育ったであろう児童養護施設も新宿だった。
新宿を
「……ブチ犬。明日、新宿署の犯罪データベースが見たい」
「なにを調べたいのですか?」
「未解決事件だ」
「
「んー……わからん」
しかし、俺の勘は悪い方にも良い方にもよく当たる。
ジジイの警部から勘で捜査をするなと、ねちっこく言われたが、それでも調べたいと思ったことが
ま、検挙率ナンバーワンだしな。
黙って俺様の言うことを聞いていればいいんだ、ケケケ。
さて、メシも食い終わったし、ハッテン場とやらに繰り出しますか!
「先輩、シャワーを浴びてから行ってくださいね」
え! 尻を出すつもりはないのだが⁈
「違います! そんな、よれよれのシャツにネクタイなんて
なるほど
俺様がシャワーを浴びる間にブチ犬は洗い物を終わらせたようだった。片づけられたテーブルにポロシャツと短パンが置いてある。
そして、なぜだかアクセサリーも。
さっぱりした俺はパンツ一枚で金のネックレスをつまみ上げた。
「なんだこりゃ」
「っぽく、しましょうよ」
お前の“っぽく”とは、どんななのかな?
不安しか勝たん。
この使い方はあっているか?
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