第20話 神の男
俺は足早にドアを離れてエレベーターに乗り込んだ。
ブチ犬が、すかさず『閉』を押す。
エレベーターが動き出してからブチ犬は口を開いた。
「先輩、誰かいましたか?」
「
「え! では、ここが新たな
「あるな」
俺は教会へ向かいながら鬼塚さんに
サンタ事件の捜査過程で、
鬼塚さんは歓喜の声をあげたが、次の瞬間、その声は怒りに変わった。
なぜならば、殺人事件が解決するまで、こちらに任せて欲しいと言ったからだ。
『サンタ殺しに弱小ヤクザがからんでいる証拠があるのか⁈』
「まだ、ありません」
『こっちが
「そうです」
『そこに顧客名簿があるかもしれないんだぞ⁈』
「わかっています」
『わかってて、お前……!』
「名簿を発見したら必ず鬼塚さんに渡します。殺人事件の捜査員として行ったので、名簿が目的だとは奴らは思わないはずです。そこをつきます」
『お前が名簿を探すと⁈』
「俺の座右の銘、知ってます?」
『なに⁈』
「
『お前……わかった。本庁・検挙率ナンバーワンのお前に任せる』
「ありがとうございます」
『しばらくだからな!』
絶対、見つけ出せ。必ず俺に持ってこいと、しつこいほど念を押され通話を切られた。
「先輩、名簿を見つけるだなんて、そんなこと言ってよかったのですか?」
俺はブチ犬に肩をすくめて返事にする。
ニセモノサンタ協会と潰れそうな暴力団。この二つは
男と二丁目で遊ぶやつは男娼で商売を始めようとしているヤクザの客か? それとも元締めか?
どちらにしろ、キナ臭さプンプンで鼻がもげそうだ。
俺は眉間にシワをよせながらこじんまりとした教会のシンプルな木製の扉を引いた。
石造りの聖堂は、それだけで涼しさをくれる。
俺は宗教は持たないが、人々の祈る気持ちが漂う空間は心が落ち着つくなぁと深呼吸をした。
正直言って説教は聞きたくもないが、それでも人が心の
人間は生きていること自体が罪なんだ。誰かに
俺の場合、家族や仲間でもいいよな? 神様よ。
「わぁ、素敵なところですね〜」
ブチ犬は女子のように指を組んで高い天井を見上げた。信者が座る長椅子の間を進みながら目を輝かせている。
「結婚式とかもできるのかなぁ。先輩、こういう場所も素敵ですよね〜」
お前がどこで結婚式をあげようと知らんがな。それより今は殺人事件の捜査中だぞ?
その時、ブチ犬の声を聞きつけたのか、祭壇の脇から神父が姿を現した。
「うちは、どのような形でも愛するお二人を祝福いたしますよ。今日、ご希望で?」
はあ⁈ なに言ってんだ⁈
大袈裟に手を広げて目尻のシワを深くする神父を思わず睨みつけてしまう。
ブチ犬は慌てて警察手帳を提示した。
「
「あ、それはとんだ勘違いを……今日はどのような御用で?」
「
「ああ! あのように善良な方が亡くなるなんて……ひどい話です。殺されたと報道されていますが本当なのでしょうか?」
「あらゆる可能性を考えて捜査しています。三太九郎さんはこちらに頻繁に来ていたのですか?」
「はい、日曜日の礼拝には必ず。信者の皆さんとも仲良くしてくださって、私の話も聞いてくださいました」
「神父さまの話とは
「いえ、
神父は悲痛な表情を浮かべてキリストの像を見上げた。
「三太九郎さんに前科があったのはご存知でしたか?」
「ええ⁈ まさか、そんなことは……あ、あったかもしれません」
「思い当たることがあるのですね?」
「はい、あの方の良い行いは、あまりにも必死で……なにか罪を犯したことがあり、その償いなのではないかと感じたことがあります」
「必死?」
「寝る間を惜しんで行き場のない子供たちを探し出しては親御さんと仲を取り持ったり、児相に相談したり。成人している若者には一緒に仕事を探したりと
個人でできる
「その活動でトラブルは発生しませんでしたか? 恨みを抱いた人物とか」
「あり得ません! ここで子供を預かったこともありますが、
俺は始めて口を開いた。
「“
「はい、そうですが?」
「三太九郎ではなく?」
「ああ、影吉さんがサンタクロースの認定を受けるときに日本の身元保証人になったのは私です」
俺とブチ犬は目を見合わせた。
「
もしかして双子の入れ替わりの実態を知っているかもしれないと期待する。
「もともと、
少し
「サンタクロースの笑い方も上手で、園児たちは本物だと目をまん丸くしていましたよ」
実際、本物になったんだからな。いや、人間界ではだが。
「それからヒゲを伸ばし始めて。子供のあんな笑顔が見られるならと仕事をやめて、慈善活動をはじめられました」
それがサンタになるきっかけか。
仕事はさまざまな職種に手を出しては長続きしなかったと捜査ファイルに書いてあったな。
「日本サンタクロース協会の
ブチ犬は“
「会長さんのことですか?
「
“兄”と呼んでいたと証言がとれれば会長の嘘が暴かれる。
俺たちは固唾を飲んで神父の解答を待った。
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