第9話 餓死した男
「佐藤係長とお話し中でしたかー。どこかに行かれるんですか?」
「あ、
「そうなんです。家族ぐるみで親しくさせてもらっていますー」
ん? まあ、おふくろはブチ犬を気に入ってはいるが。
「え! そ、そうなんですね。それは、また……」
係長の
「なんのお話をされていたんですかー?
「あ、いえ、現場に行くのならご案内差し上げようと……」
「先輩、現場に行きたいんですかー?」
話し方が気持ち悪くて
「おう。現場に連れて行ってくれ」
「あー、でもここを離れるのはー……佐藤係長、自分の代わりに、ここをお願いできますか?」
「え! わ、私がですか⁈」
「先輩、佐藤係長はとても優秀な方なんですよー」
「ほおー。じゃあ、安心だな」
「い、いや、しかし……」
面白くなってきやがった。ひと押ししてやろう。
「新宿署の佐藤係長だな。覚えておく」
「は、はい! 光栄であります!」
うわ、典型的な犬だな。
「では、ここをお願いしますねー?」
「はい、お任せください!」
扱いやす〜。
ブチ犬は周りの捜査員に佐藤係長に従うように指示を出し、佐藤係長には
「お前、ひでーやつだなぁ」
エレベーターの扉が閉まるのを待たずに、俺は我慢出来なくなって吹き出した。
「だって、先輩と捜査したかったんです」
「警視試験も
「
「なるかねぇ?」
「二人でサンタ事件を解決すれば、さらにプラスになります!」
だから、俺がお偉いさんの息子だと
でなければ、こいつが俺の嫌がることをするわけがないもんな。
本当、
とんとんと
「まずは
おう、望むところだっ。
俺は呆然としていた。目の前の光景が信じられない。
ここは……
「サンタさんちじゃねーか……」
天井につくほどのツリーの下にはプレゼントの箱が置かれ、その周りに敷かれた線路にはリースをつけた機関車が。
部屋中がクリスマスカラーのモールやベルで飾られ、暖炉まである。暖炉には、当然だが靴下がぶら下がっている。
北欧調のタンスの上には小さなトナカイのオブジェ。机には子供たちからの手紙。壁には、やはり子供たちからの絵や写真が貼られていた。
家具も調度品もゆり椅子も、どこをとっても完璧な“サンタクロースの家”だ。
本当にサンタさんなの?
いやいや、しっかりしろ俺。ここは東京新宿の
こんな所にサンタクロースが住んでいるわけがない。
俺は頭を振りながらクローゼットを開け、さらにめまいに襲われた。
サンタクロースの衣装がずらりと並んでいたからだ。というか、サンタの衣装しかない。
引き出しを開けても絵本で見たようなセーターやモコモコの靴下が。
キッチンも北欧調で丸っこい冷蔵庫が可愛らしく、皿やマグカップもクリスマスカラーだった。
「うわあ、
ブチ犬がトナカイのイラストが描かれたエサ入れを
「徹底ってレベルじゃないな」
「先輩、子供部屋はこんな感じにしません?」
いったい、なんの話だ。
俺は軽くスルーして、壁に飾られた賞状のようなものに見入った。しかし、外国語で書かれていて読めない。
俺が目を近づけていると、ブチ犬が「それが国際サンタクロース協会の公式サンタ許可証だそうですよ」と並んでのぞき込む。
そのサンタ許可証がなければ、
「許可証をもらうには生活そのものがサンタクロースでないとダメだってことなんでしょうね。年に一度、フィンランドで行われるサンタ会議にも出席しなくてはならないそうですよ」
サンタやるのも大変なんだな。
クリスマスシーズンはサンタに
ってか、ニセモノサンタは夏場はなにをやっているんだ?
「
「
「今どき現物支給か」
「サンタという職業はないというのが
ブチ犬は、
「ここにも何名か遊びに来ていたそうです。鑑識が指紋の照合に
子供の指紋を採取するには保護者の同意が必要だ。
保護者が施設の人間なら話は早いが、一時的に保護している子供の親に協力的なやつは少ないのだろう。
それにしても……
「きな臭いな」
ブチ犬は強く
「先輩もそう思いますよね。宗教家が児童に性的な虐待を行うことは、よく聞く話です。その線でも聞き込みを行っていますが、今のところ
「ふーん……大人の指紋は? 施設出身者で過去にここに来たことのある、元子供の指紋」
「そうか! 現在は成人していても……」
「心の傷はそう簡単には消せないからな」
「鑑識に照合範囲を広げさせます!」
ところで。
「そもそも、なんで死んだんだ? 死因は?」
「それが……」
「なんだ? 薬物でも出たのか?」
「いえ、それはまだ結果は出てないそうですが……」
「が?」
「餓死の可能性が高いと……」
「餓死⁈」
この東京のど真ん中で⁈
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