第7話 紹介されちまった男
「新宿署に行くぞ」
俺は水をグビっと飲んで立ち上がった。
「ダメです」
ええ⁈ ダメ⁈
ブチ犬の言葉に目を見張ると、ブチ犬は「捜査会議が先です」と、のたまいやがった。
「まずは全体で情報の共有と顔見せをします。新宿にはそのあとに行きましょう。アポイントメントも取らないといけませんし」
「なにについての
パルクール猿を汗だくになって
「当直室でシャワーを浴びてきてください。どうせ着替えなんて置いてないですよね? はい、下着とワイシャツです。ズボンと上着は我慢してください」
なんで、俺のサイズ……そうだ、お前はガキの頃から俺の女房役だったな。
それに、これはお前の警視試験でもあったんだった。すまん、大事なことを忘れるところだったぞ。
俺は着替えを受け取って、当直室のシャワーを借りにいった。
いつもは五分で終わらせるシャワーを三分で切り上げ、足早に『新宿サンタクロース殺人事件捜査本部』の文字が書かれた扉を開ける。
総勢……よくわからんが数十名が
新宿署の係長が、世間を騒がしている動画をモニターに再生させ、捜査員に現在知り得た情報を共有し始める。
俺は、そそくさと空いている椅子を引き寄せた。
なんてったって真夏にサンタが現れれば、誰の記憶にも残るからだろうと思ったが、そうではなく、
顔見知りも多く、職業サンタらしく人付き合いも良好で人望も厚かった。
数日前から姿を見かけないと思っていた近隣の住人が、雑居ビルからおぼつかない足取りで出てきた三太九郎に声をかけたが、すでに取り乱していたという。
「えー、はい。そのビルの七階に三太九郎の自宅がありまして……隣のビルの防犯カメラによると自宅から非常階段を使って降りたと思われます。はい」
係長さん緊張してんな。ってか、サンタの自宅が
あと、殺人の根拠はなんなんだ? 外傷でもあったのか?
まだ検死報告も届いていないのに殺人事件だと断定しているな。
ブチ犬もそこに
「
うん、用意周到なブチ犬くんらしい配慮の仕方だな。
それにしても、そうやってマイクを握っていると、オバチャンアイドルの演歌歌手みたいだぞ。あ、
そんな色男のブチ犬と、ふと目が合った。
あり? 俺を見てる?
「最後に、今回の捜査に特別にご協力をいただける方を紹介いたします」
へ? 俺を見たまま、なに言ってんの?
「
な、な、な、なんで親父の名前をだすのー⁈
「
ブチ犬め。いったい、どういう
ましてや、ただでさえ珍しくて印象に残る名前を連呼しやがって、これじゃあ、どんな鈍感なやつにでも俺が長官の息子だとバレてしまうだろうが。
俺は、立てと手で合図をするブチ犬をひと
「
なにを考えているのか知らんがブチ犬の顔を潰すわけにはいかないからな。大人の対応だ。
そして、決心した。
あとでシメ上げてやる。
もちろん俺が長官の息子だということは警視総監も把握してしている。当然、一課の課長も仲間たちもだ。
しかし、皆、公然の秘密のように口にする者はいない。秘密でもなんでもないのだが、長官の息子がキャリアでないのが、その原因だと思っている。
出来損ないの息子を押しつけられたと
ま、尻尾を振ってゴマをすりに近づいてくるやつよりはマシだと知ったがな。
さて、ブチ犬くん。
いったい君はなにを考えているのかな?
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