僕に欠けているもの

左下の地球儀

1ロマンティック

 彼女はとてもいい人だった。


 僕の小さな悩みにも真剣に考えて向き合ってくれたし、共通の趣味を持っていた彼女との会話はとても楽しかったし、何より清楚な雰囲気のショートカットがとても僕好みだったし。


 それに彼女は最後までいい人でいてくれた。


 他の人は大抵「最低」とか「騙したの」とか、去り際に僕を貶して何処かに行ってしまう。


 けれど彼女はその綺麗な瞳に涙を浮かべながら一言「ごめんね」とだけ言って、僕を置いて帰って行った。


 もしあの時少しだけ見栄を張っていれば、くだらない見栄も実質を伴う本物になって、彼女は僕の欠点を補ってくれる運命の人にすらなり得たのかもしれない。


 ただ、拘りなのか負い目なのかは知らないけど、僕は彼女にだけは誠実で居たかったから、そうすることが出来なかった。


 彼女との間に無いものを有ると騙る行為を、僕だけが許容することが出来なかった、それだけの話。


 結局僕が彼女に対して抱けた感情の本質はどれもただの劣情が見た目を変えただけの紛い物でしかなかったのだ。


 きっと、彼女はまた前を向いて僕が進めない道を歩いて幸せを掴み、僕とのことも「昔の恋」にして記憶の隅にしまってしまうのだろう。


 多分僕も、散らかった机の上にあるタバコに火をつければ、今思い詰めていることも冷めた目で俯瞰して、綺麗に諦めることができるのだろう。


 けれど、今はもう少しだけこの苦しみに悶えていようと思う。

 

 「ほんとうに、ごめんね」


 茉莉花のアロマと彼女との思い出が香る部屋の中で、一人自分勝手で自己満足でしかない贖罪をした。

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僕に欠けているもの 左下の地球儀 @BLG_619

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