夜更けのマゴット

深海うに

夜更けのマゴット

「あなたって本当にウジ虫みたい」


 いつか、食べてみたいと思ってた。

 ひなげしは、ポピーみたいに真っ赤に腫れあがった目をキョロキョロさせながら、笑いを含んだ涙声で言った。


「嬉しい」


 アタシの声は、自分でも信じられないくらいに震えていた。


「アタシも、いつかアンタに食べてほしいと思ってたの」


 アタシは服を脱ぐことにした。こんな布切れ、今となっては邪魔以外の何者でもない。

 声と同じくらいにぶるぶる震える指先で、アタシは制服のボタンを一つずつ外していく。

 彼女の気が変わらないうちにと焦れば焦るほど、指先の震えは大きくなる。

 情けない声を漏らすアタシを、ひなげしは冷たく見下ろしている。大丈夫。服を脱ぐ意図はちゃんと理解ってくれている。

 関節が軋むのに耐えながら、下着も、靴下も、すべて外した。

 体中があざだらけ、傷だらけだ。綺麗な姿じゃないのが少し悔しい。夕闇が少しでも隠してくれるといいんだけど。

 屋外でこんな風に裸になるなんて、少し恥ずかしい。でも、全部ひなげしのためだから。そう思えば高揚が羞恥を上回っていく。いつもは不快だと感じていたドブ川の水音が、この上なく心地良く響く。


 どうせ、ここには誰も来ない。


 ひなげしは軽蔑の眼差しでアタシを見ていた。だけど、アタシにはわかる。

 その軽蔑の奥に、隠しきれていない興奮があることを。ぎらついた眼光は、捕食者のものだということを。

 月明りを背負って荒く呼吸を繰り返すひなげしは、不思議なほどに美しい。

 全ての準備を終えたアタシは、ひなげしに向かって両手を広げた。


「食べて。好きなように」


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