第2話
街外れに位置する森の中にとうに朽ち果てた廃工場がある。
ホラースポットとして噂が多いその場所だが、それ以上に治安が悪いことで有名だ。
そのため、アホな悪ガキ小学生の遊び場だった廃工場は今やよからぬ大人ぐらいしか立ち入ることはない。
朝香を探しに廃工場に来た俺は正面から廃工場を眺めていた。
ここに来たのはいつぶりだっけ?
ぼんやりとした記憶だが小学生の頃に友達とここでかくれんぼをして遊んだ記憶がある。
俺は少しの間、昔の思い出にふけると、嫌な空気が漂う廃工場へと近づいた。
錆びてきしんだ音を出すドアを開けて工場の中へと入った。
扉は念のため開け放しておいたのが良かった。
中はシンとしており、壊れた天井から差し込む太陽の明かりのみで薄暗い。
煩雑に放置された機械、朽ち果てたベルトコンベアー、それらに振り積もった砂塵。
まるでもう何年も人が立ち入って居ないかのように見えたが、よく見ると違う。
床には足跡が沢山付いていた。
どうやら噂は本当のようだ
「朝香――!いたら返事してくれ!!」
声を張り上げた。
自分の声が反響してしばらく鳴り響く。
やはりこんなところに朝香が来るはずが無い。蛇谷の嘘に踊らせれたんだ。
もう帰ろうと入ってきた扉の方を向いた。
その瞬間に音を立てて勢いよく扉が閉まってしまった。
扉が勢いよく閉まった音がしばらく反響し、やがてその音が消えた。
俺は突然のことに理解が追いつかず、一周回って冷静さをまだ保つことが出来ていた。
蛇谷のイタズか?いや違う。あいつは俺みたいな陰キャにここまで時間を割く奴じゃ無い。
じゃあなんだ?風で閉まったとか?そんなことあり得るか?
いろんな可能性を出してはそれらを否定していく。
否定するに連れて心臓の鼓動が速くなっていくのが分かった。
ドアノブを回して扉を開けようとするが一向に開かない。
まるで扉の外側に大きくて重い何かが置かれているのかビクともしない。
「開けてくれ!誰かそこにいるんだろ!?」
俺は扉を力一杯叩きながら怒鳴ったが反応は返ってこない。
むしろ、扉を叩く音の反響音がより一層恐怖心を刺激した。
それでもめげずに扉を叩き続けた。
だが突如として黒板を引っ掻いたような不協和音が響き渡った。
この世のものとは思えない不気味な音に扉を叩くのも大声で叫ぶ声も止まってしまう。
そして振り返るとヤツがそこに立っていた
電話ボックスぐらいの高い背丈をした人型のソイツは身長の割に体が細く全身が影みたいに暗くて、鼻や口といったパーツが見当たらない。
なのに目だけは不気味なほど丸く、血のような朱色をしてこちらをジッと見つめている。
全身の毛穴から油汗が噴き出した。
見たら分かる。あれは魔物だ。
先ほどの不協和音はソイツの鋭いツメが鳴らしたものだった。
魔物なんて一生俺とは縁が無い存在だと思っていた。
だから、こんな身近な場所にいるなんて思いもしなかった。
「恝サカヒ艫ミ・クメ!`伃ヤム-6?」
ソイツは相変わらず俺のことをジーッと見つめながら呪いのような言葉を吐いた。
途端に俺の体はまるで金縛りにあったように動けなくなってしまう。
ソイツは呪いを吐きながら俺の方に向かってゆっくりと進んでいる。
もうダメだ。
俺が諦め目を閉じようとしたとき、さらに怪現象が巻き起こった。
床が淡い紫色に光輝きだしている。
そして、床をよく見ると床自体が輝いているのではなく、床に現れている複雑な図形と見たことのない文字で書かれた魔法陣が輝いていた。
「ォッムェメー齊扠!」
その怪現象が起こった同時に魔物は悲痛な叫び声を上げてのたうち回り、暴れ出した。
俺から集中が外れ、そこら辺の機械を破壊して回る魔物を見て、俺はこれがラストチャンスだとドアノブに手を伸ばした。
あまりの恐怖によって俺はまだ金縛りにあっている。
それでも手を震わせながら、ドアノブを握り締めて捻った。
だけれども開かなかった。
クソっ!!これが最後のチャンスなのに!
俺は力を振り絞って何度も何度も何度も何度も何度もドアノブを回した。
開くと信じて、ドアノブを引っ張ったり押したりもした。
だけれども開くことは無かった
あの化け物は苦しみに耐えかねて咆哮をあげながら腕を振り回して、手当たり次第に破壊の限りを尽くした。
そして、その対象に俺が入ろうとしていた。
あ・・・死ぬのか?
振り返った瞬間、すぐ目の前で腕を振り上げているソイツと目があった
恐怖で目を閉じようとしたが、もうまぶたすら動かない。
立っているのが不思議なくらいだった。
次の瞬間、紫色の液体が俺の体に降りかかった。
一瞬たりともまぶたを閉じなかったため、俺は全てを見ていた。
魔物の体が突然頭から真っ二つに引き裂かれ、おびただしい量の血をまき散らしながら崩れ落ちた光景を。
そして、魔物を一刀両断にした少女の姿を。
「少年。危ないところだったな。だが私の姿を見られた以上貴様の記憶は消させてm・・・」
化け物の体が崩れ落ちた先に立っていたのは、刀を手にする一人の少女。
そして、彼女は芝居がかった声で発していたが俺の顔を見るなり、言葉がぷつりと切れた。
「・・・朝香なのか?」
唖然とする彼女は黒髪に青い目をしており、赤いリボンを付けた制服を着ている。
どこからどう見ても蒼月朝香、彼女に違いなかった。
「えーと・・・斬り捨て御免!!」
芝居がかった声ではなくいつも通りの朝香の声で、彼女はそう言い放った。
そして、鞘で俺の首を斜め45°の角度で思いっ切りぶった。
その一撃で俺の意識は一瞬で闇の中へと落ちていった。
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