リベリオン

直治

プロローグ章

第1話

2032年 日本

・・・チュンチュン

雀の鳴き声を聞きながら、制服の袖に腕を通す。

ニュース番組に表示されている時刻は八時四分。

ここから学校まで歩いて二十分、走ったら十分ぐらいはかかる

何事も無ければ学校には十分間に合う時間だ。

しかし、ふとベッドに目をやれば、まだ静かに寝息を立てている朝香の姿がそこにあった。


「ねぇ竜二!?どうしてもっと早く起こしてくれなかったの!」

怒鳴りながら走る朝香ともか

彼女のフルネームは蒼月朝香あおつきともか

黒髪のショートヘアと青い瞳の相性が抜群の俺の彼女だ。

幼なじみという友達止まりの関係が嫌で、つい四日前に勇気を出して告白したばかりだ。

因みに彼女は走りながら息を切らさず喋れる程の体力を持っており、男子を含めても学校一の体力自慢だと思う。


「普通・・・自分でッ・・・・起きるッ・・・もんだろッ!」

息も絶え絶えに朝香に言い返しながら、彼女の後を追いかける俺。

今の時間は体感的に八時二十分ちょっと前、信号に引っ掛からなければ恐らく間に合うが、、、


「あぁああああ!!」

朝香は真っ赤に灯る信号を見て崩れ落ちた。

俺はと言うと、頭が真っ白になっていた、次遅刻すれば三度目の生徒指導室。

そうなれば追加課題を課されるのは必須。


「りゅうじ~~。本当になんで起こしてくれなかったの!?」

頬を膨らませて怒る朝香。

「朝香は今日も可愛いな」

「誤魔化すな!!」

朝香はちょろいから、これでいけると思ったんだけどな。

「何というか・・・忘れてたというか?だってさほら、あそこ自分の部屋だし、普段一人だしさ」

俺はマンションで一人暮らしだ。

朝香も同じマンションで一人暮らし、しかも俺の隣の部屋。

小六の時に初めて彼女と会った

互いに歳の割に一人暮らしということもあって、よくどちらかの部屋で一緒に寝ていた。

その習慣を今もまだ続けているという訳だ。


「忘れないでよ!!次遅刻したら、わたし減点くらっt・・・」

朝香の言葉の途中で、赤信号が青へと変わった。

俺はスタンディングスタートを華麗に決めて、一気に加速。

置いてけぼりになった朝香も遅れて走り出す。

今の時刻八時二十六分、本気で走れば十分間に合う!

周りの景色がゆっくりと後ろに流れていったかと思えば、凄い勢いで遠ざかっていく

学校が見えてきた。体内時間を頼りにすると残り二分。

十分間に合う。

俺は下駄箱へ急いだ。履き替える時間は無い。靴だけ脱いで裸足で教室へと向かう。

俺の後ろに朝香の姿は無い。あいつは遅刻確定だと朝香のことをプークスクスと内心笑った。

廊下を走っている最中にチャイムが鳴らないか心臓をバクバクさせながら走り抜けた。

そしてついにチャイムの音が鳴らなかった俺は勝利を確信して教室のドアを勢いよく開けたのだった



「それで中学校の教室に入ったんだwwww。私達今年から高校生なんだよwww」

朝香がケラケラと笑っている。

今日は4月7日、高校の進学式だった。

それをすっかりと忘れて、中学校校舎の教室へと飛び込んでしまった

あのときの静けさといったらトラウマレベル。

「・・・死にたい」

俺がそう言うと、朝香はめちゃくちゃに笑った

でも朝香も人のことを言えないだろう。

中学校生徒の制服のリボンは赤色、高校にあがると青色のリボンにへと変わる

そして今朝香が付けているリボンは赤色だった


「初日からひどい目にあったわ」

「良いじゃん別に。みんな見知った顔なんだし。なんなら私も馬鹿にされちゃったしさ」

それもそうか、と返した。

この学校は普通とは少し異なる。

小中高と持ち上がり形式の国立学校だ。

だから、クラスで初めましての人はいない。

そう思えば・・・楽だよな?。

と自分に言い聞かせないと狂ってしまいそうだ


「じゃあわたしは用事があるからここで」

朝香が立ち止まった。

「ん?りょーかい。じゃあまた明日」

俺はいつものことだと、なんにも気にも留めず朝香と別れた

朝香は運動神経がこれでもかというぐらい良かったが、中学のときは万年帰宅部。

放課後に何やらしているようだったが、問い詰めてもいつも秘密と言われてはぐらかされて、すっかりそれに慣れてしまった


そうして俺は久々に一人で本屋へと立ち寄っていた

電子書籍が今や主流だが紙媒体の方が好きだ。だけれども客が俺以外に見当たらないこの本屋ももう後は長くないようだ。

VR・AR技術の発展により本の世界に文字通り入り込むことのできるダイブリーディングという一種の読書形態が開発されてから、活字の本の売れ行きは徐々に悪くなっている。

それでも俺は活字の本が好きだった。やはり本は読んで体験するもの、そういう信念を持っているからだ。

実は言えば拡張装置を買うお金が無いというのは本音だ。


一時間ほど小説やライトノベル、漫画あたりを見回った後本屋の外に出た

「サイフ君じゃん。朝香ちゃんはどーしたの?」

ニヤニヤ悪いながら話し掛けてくる金髪男。

「・・・」

蛇谷諒也、不運なことに俺と同じ学年の不良生徒だ。

やりちん野郎としても有名で泣かした女の子は数知れず。

無理やり寝取ってすぐ捨てたなんて噂も聞く悪趣味な奴だ。

そして、よく俺からなけなしの金を奪っていたクソ野郎だ。

俺みたいな被害者は多く、一度問題になって謹慎処分になってしばらくはなりを潜めているようだが、標的は校外に変えただけで、こいつの本質は何にも変わっていない。


「無視かよ。まぁいいや俺知ってるぜ。あいつがいる場所」

だから何だっていうんだ?

俺は蛇谷を無視して彼の横を通り過ぎようとした

「お前の彼女、例の廃工場に入っていったぜ。あの援交場で有名なところだって知ってんだろ?」

俺は思わず立ち止まってしまった。

振り返らずとも蛇谷が俺の反応を楽しんでいる様子が容易に想像つく

だが立ち止まらずにはいられない。

例の廃工場というのは街の外れにあって、ホラースポットとしても有名だったが、蛇谷の言う噂の方が有名だ

「やっぱ興味あんだろ?俺もあそこで朝香ちゃんで堪能させて貰ったことあるからな!意外とビッチだぜ、あいつ」

「ッ!!」

俺は怒りのあまり思わず蛇谷の胸倉を掴み上げた。

間髪入れず蛇谷のストレートが俺の左頬を撃ちぬいた。

ボクシングの強化選手指定されている蛇谷に運動をまともにしたことがない俺が勝てるわけがなかった。


「ハッw、いつからこんな生意気になったんだよ?。ま、あいつがあそこに入ったのは本当だけどな。あいつもお前と一緒で孤児なんだろ、金に困って本当にオッサンでも引っ掛けてんじゃねぇのか?」

ギャハハハと嫌な笑い声をあげた蛇谷は去っていた。


廃工場か・・・

朝香を疑う訳じゃない。

そうだきっと理由があるはず。あいつに限ってそんなことはあり得ない

だからわざわざ確認する必要なんて無いはずだ。

そう思いつつも俺は気が付くと歩き出していた。

くそっ!何で朝香のことを信じてあげられない?

俺はズブズブとした嫌な感情を巻き立てながら廃工場へと向かった。



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