Ver6.1 殺したいほどお前が嫌い

「ぱぱ、だいすき!」


 これは夢だ。


「ああ、パパもクジが大好きだよ」


 随分昔の夢だ。


「まま、だいすき!」


 もう見ることはないと思っていた夢。

 なぜ、今また見ている?


「ええ、私も大好きよ、クジ」


 無邪気に笑う自分が見える。

 なんともまぁ。

 バカ幸せだったのだろうか。

 これら全てが偽りだと。


 私は何故早く気づかなかったのだろうか。


 私は、バカだ。









 目を覚ますと、そこは見慣れたいつもの寝室だった。

 

 最悪の夢。


 最悪の朝だ。


 こういう日はどうも運の周りが悪いことが多い。

 気をつけて生活しないとな。


「そうよ。年頃の女の子なんだから気をつけないと」


 その声は隣の茶の間から聞こえてきた。

 それと、この世で一番聞きたくない声でもあった。


 恐る恐る顔を上げた。

 

 いた。


 赤い瞳。

 長い髪。

 黒いドレス。


 この世で一番殺したい奴。

 マヨイガがそこにいた。


 ……。


 いや、気のせいか。

 もう一回寝よう。


「気のせいじゃないわよ」


 ……最悪だ。


「会って一言目がそれなの? 全く、酷い娘がいたものよね」

「人の思考読んでんじゃねーよ」

「読めちゃうんだから仕方ないでしょー?」


 マヨイガは悪びれる様子もなく、部屋を眺めていた。


「本当に昔のままなのね。ちゃんと掃除もしてるし、偉いわ」

「さっさと出てけ」

「私の実家なのに?」

「お前は家族じゃない」

「私が貴方を産んだのに?」


 こいつ……。

 

 マヨイガはにたりと笑いながらこちらを見ていた。

 この言葉がどれだけ私が嫌っているのか分かっている顔だ。


 死ね。

 マジで。


「さっさと消えろ。お前の顔なんてみたくねーんだよ」

「はぁ……この前言ったこと、もう忘れてるのね」


 なんかあったっけ。


「やっぱり忘れてた」

「だから思考読むな」

「トウジさんに線香を上げに来たのよ」


 ふと、仏壇を見ると、線香が一本立てられていた。


「命日が近いからねぇ。ちゃんと冥福を祈らないと」


 感慨深げにそういうマヨイガ。


 私の頭には、一瞬で血が上った。




「お前が殺したんだろうが!!!!!!!!」




 意識が遠のく感覚が襲ってきた。

 呼吸も荒い。

 さっき見ていた夢が、再び脳裏に浮かび上がる。


 あの偽りの日々が。

 あの欺かれた幸せが。


 こいつは。

 こいつだけは。

 絶対に許さない。


 怒りに震える私をみて、マヨイガは笑みを浮かべながら話始めた。

 

「ねぇクジ、こうしましょうか」


 こちらに近づき、再び口を開く。


「私のお願いを聞いてくれた、何でも質問に答えてあげるわ」




 ―――Ver6.1 殺したいほどお前が嫌い 終

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