2.0patch 手札は揃った

 夜。


 トウアンの最南端。


 廃墟と化した工業地帯の奥地。


 打ち捨てられた巨大なパラボラアンテナの下で、炎が灯った。


 その色は、緑だった。


「あいてて……ひどい目にあった……」


 小さくなった緑の炎がそう言うと、暗がりから人影が近づいてくる。


「やっと来たか。君は気まぐれ過ぎて困る」


 声の主は、フェイスマンだった。


「別にいつ来ようがボクの勝手だろう?」

「だが、約束くらいは守るべきじゃないのか?」

「ボク達に時間の概念はないじゃないか。随分人間社会に溶け込んでるんだね」

「彼らを観察するには中から見るのが一番だからね」


 緑の炎は怪訝な顔をした。

 しかし、フェイスマンは話を続けた。


「それに、この奇怪な状況も気になるじゃないか」

「状況っていうのは……ボク達が収められている箱のことかい?」

「箱というか器というか……こっちではエラーコード九十九と言うらしい」

「ふぅん……そのエラーコード九十九ってやつがボク達をここに呼んで、留めているってことかな?」

「その理解で合っているよ」

「それはちょっと――ムカつくね」


 その言葉にフェイスマンは笑い声を上げた。


「そう言うと思ったよ。だから――近々会うことにしたんだ」


「会う? 誰と?」

「この忌まわしきエラーコード九十九を作った張本人にさ」

「へぇ、人間が作ったのか。そりゃすごいね」

「いいや違うよ」


「これを作ったのは、僕達にとても似ている存在さ」


 フェイスマンの声はどこか邪悪に聞こえた。

 

「ところで、君のことはなんて呼べばいいんだい?」


 緑の炎に向かってフェイスマンは問うた。

 緑の炎は呆れた様子だった。


「いつも通り呼べばいいじゃないか」

「そう思ったのだけど、僕も彼も、新しい名前をつけて遊んでいるんだ」

「バカみたいだねぇ」

「これもこれで楽しいものだよ。嫌ならいいけれども」

「まぁ、待ってよ。うーん、そうだなぁ……」

「……」

「そうだ! グリーン・コード! これで行こう!」

「……察してはいるけど、名前の由来を聞いてもいいかな?」

「それはもちろん、エラーコード九十九なんていう馬鹿げた存在に成り代わるためさ!」

「……まぁ、やる気があることはいいけどね」


 廃墟と化した工業地帯。

 機械の頭をした男と、緑の炎の会話が響く。





 朝方になると、二人の面影は消え、変わりに僧侶姿のオートマトンの姿があった。


 スマートフォンでどこかと通話しているようだった。


「やぁクジ、久しぶりだな。私だ、トクイチだよ」



―――2.0patch 手札は揃った 終

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