Ver5.10 貴方の名前を知らないままに。

軍用オートマトンは緑の炎に包まれていた。

襲われたクソンを助けるために、身代わりとなったのだ。


炎上。


引火。


爆発。


もう助からないであろうことは、クソンの目から見ても明らかだった。


「あは! まさかそっちからやられるくるなんて! こりゃ嬉しい誤算だね!」


 軍用オートマトンを包み込んでいる緑の炎が嬉しそうに喋り出した。


 ――私のせいだ。


 クソンの中に罪悪感がにじみ出る。


 しかし軍用オートマトンは、身体が燃えながらもクソンを見つめていた。

 そのことに気づいたクソンは瞬間、意図を察し、床に伏せた。


 同時に、軍用オートマトンの身体が光り出し――


 自爆した――


 いや、自爆ではない。

 これは、EMPだ。


 途轍もない風圧と、耳がイカれそうな金切り音が廊下を、ビル全体を駆け巡る。

 蛍光灯は次々割れ、壁に飾られたモニターも次々破壊されていく。

 とんでもない量だ。

 自分がオートマトン手術をしていないただの人間でよかったと、クソンは心底思った。


 そして、不思議なことが起きていた。


「あ、ああ……! 死にぞこ……ないの……くせ……に……!」

 

 緑の炎が苦しんでいた。


 炎がEMPに苦しんでる?

 

 妙だ。


 それはつまり、この緑の炎はどこかの機械に本体があるということ?

 ということは、こいつもエラーコード九十九なの?


 だったら、対処できる。

 なんとかできる。


 クソンは思考を急いで巡らせる。


 多くの人に寄生することができる機械。

 オートマトン手術が原因?

 それならビルだけに留まらない。

 このビルだけにある機械。

 このビルにいる人達が使う機械。

 PC?

 ちがう。

 …………インターネット!


 サーバーだ!


 クソンは素早く四柱推命を展開し、年干支・月干支・日干支を念じる。

 

 ――出た

 ――特殊星・天官貴人


 クソンの思念がビルを駆け巡る。

 下へ、下へ。

 地下の3階。

 サーバールーム。

 

 見つけた――


 しかし、遠すぎる。


 今から向かって間に合うのか……?


「間に合わないよ。諦めな」


 クソンが振り向くと、緑の炎が笑っていた。

 どうやら、元に戻ったようだ。


「全く……死にぞこないのくせにとんだ抵抗をされたものだね」

「……あなたは、ただの妖怪ではないね」

「ヨウカイ? よく分からないけど、ボクはボクだよ」

「名前を聞いてもいい?」

「その必要はないよ」

「……え?」

「これから嫌と言うほど頭の中で繰り返すからね!」


 緑の炎がクソンを覆い尽くした――


 かに思われた。

 が、突然姿を消した。

 まさに、煙のように……。


 自分の身体に異常はない。

 精神や魂の汚染も感じない。

 となると――


「どうやら間に合ったようですね」


 ジゥが暗がりから現れた。


「ジゥがやってくれたの……?」

「私がやるわけないじゃないですか」

「……その反応はどうなの?」

「クジが貴方の気を感じて追いかけて行ったんですよ。そして、何とかしたんでしょうね」

「……そっか。まぁ、助かったよ」

「貴方はずっと気づいてたんじゃないんですか?」

「え?」

「ここに来てから反応がずっと変だったじゃないですか」

「嫌な予感がしてたんだ……」

「貴方はムーダンですからね。トラに関わる神霊には過敏でしょうね」


 クソンは、廊下で煙を上げ、横たわっている軍用オートマトンに目をやった。


「……このオートマトン」

「……もう、壊れていますね」

「……やっぱり最後の抵抗だったんだね」


 クソンは立ち上がり、その軍用オートマトンだったものに近づき、手を添えた。


「貴方の名前、聞けなくてごめんね」



 こうして、最も壮絶で、最も奇怪な1日が終わった。


 そして、3人は後に気づく。


 この出来事が、ただの始まりに過ぎないということに――



―――Ver5.10 貴方の名前を知らないままに。 終

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