Ver5.8 笑う炎

 クジ達は硬直した。


 全ての騒動が同じ発生源と思っていたからだ。

 いや、同じとは言わなくとも、協力的関係性が存在するだろうと思っていた。

 それぞれが連鎖する関係だと思っていた。


 だからこの軍用オートマトンも、緑の炎も、幽霊も。

 全てが一つのグループだと、そう思っていた。


 だがしかし。


 不可解なことが起きた。


 軍用オートマトンは緑の炎に突っ込んだ。


 そして、おっさんの身体にのしかかり、火を払うような動きを見せた。

 それは、火災現場で人を助ける行動に酷似していた。


 だがしかし、緑色の火が消える様子はない。

 火はおっさんの身体全てを燃やし尽くそうとしている。


 すると、軍用オートマトンはその大きな前足で――

 おっさんを踏み殺した――

 

 分からない。

 状況が入り組みすぎて理解が追いつかない。

 一体こいつらは何がしたい?――


「はぁー……いい加減にしてくれるかな?」


 聞き覚えのない声が突然聞こえてきた。

 辺りに人らしき姿は見当たらない。

 どこからだ?


「そこの機械。ボクに何の恨みがあるんだい?」


 どうやら、軍用オートマトンに向かって言ってるようだ。

 では、この声の主は誰だ?


「あ~あ、全く……せっかく作った眷属なのに……でもまぁ、いいか」


 相変わらず声の主は見当たらない。

 あるとしたら、私たち三人と軍用オートマトン、それと――


「まさか……」


 おっさんの死体から激しく炎が立ち上がった。

 緑の炎だ。 


「遅かれ早かれ、結末は一緒だもんね!」


 その炎はケラケラと笑い出した。

 ご丁寧に、顔と口を浮かばせながら。


 もう推察も、考察も必要ない。

 間違いない。


 こいつが、この件の犯人だ。


「さて、死にぞこないは君に上げるよ機械君。せいぜいボクのお零れで我慢するんだね。ま、もっと人間が欲しいって言うならボクから奪ってみなよ。どうせこのビルにいる人間はボクの眷属になるんだからね」


 ケラケラと笑う炎は徐々に勢いを失い、おっさんの身体から消えていった。

 残ったのは、おっさんの焼死体だけだった。


 軍用オートマトンはその焼死体を見て立ち止まっていた。

 何かを識別しようとしたのか。

 はたまた、悲しんでいるのか。

 側目からは分からない。


 ただ一声、獣の唸り声を上げた。

 その声は、どこか悲しみに満ちているようだった。


 暫くすると、再び背景に溶け込むように消えていった。

 


「一体何がどうなってんだよ……」


 私はそう言葉にする以外できなかった。


「……ですが、全ての元凶は分かりました」


 ジゥがいつもの拍子で喋りだした。

 (こいつ、何も)


「あの緑の炎だな」

「ええ、後は根源を探すだけです」

「根源ってのは?」

「寝ぼけてるんですか?」

「あの喋る炎に根源的な何かがあるっていうのかよ」

「この世界で起きる奇怪な事象なんて、1つしかないでしょう?」


 ここまで来て、ジゥが何を言いたいのか分かった。


「あれもエラーコード九十九だって言いたいのかよ」

「それ以外ないでしょう。問題は、それがどこにあるのか……」

「それと、あの軍用オートマトンもなんとかしねーと」


 問題が多すぎる。

 それに、ほっとくとビルにいる人間も危ない。

 どうすりゃいいんだ。


「私が行くよ」


 そう言い出しのたのはクソンだった。


「おいおい、1人でどうにかできると思ってるのかよ」

「できないよ」

「んじゃ何の名乗りだったんだよ」

「あの炎と軍用オートマトンは私が追いかける。二人はエラーコード九十九の発生源を探して」


 そういうとクソンは、返事も待たずにビルの中へ入っていった。


「おい!!」


 追いかけようとすると、ジゥに制止された。


「クソンに任せましょう」

「任せるって……」

「むしろ、クソンが一番適任です」

「なんで」

「クソンは、幽霊の正体を倀鬼って言ったんですよね?」

「ああ」


 私には聞き馴染のない言葉だった。

 

「倀鬼はトラに食い殺された者が変貌する妖怪です」


 ああ、と思った。

 だからクソンが詳しいのか。

 だが1つわからないことがあった。


「だけど、私が見た時はトラなんかに食い殺されて無かったぜ?」

「いたのはあの軍用オートマトンだったんでしょう?」

「ああ」

「じゃぁ、そういうことですよ」


 まさかと思った。


「……あの軍用オートマトンにトラが使われてるって言うのか?」

「ええ、しかも倀鬼を生み出せるほど純度の高いトラを、ですね」


 私の頭の中にはいつぞやの美術館の事件が頭をよぎった。


 何故人はこうも。

 何度も何度も。

 同じ過ちを繰り返すのだろうか。




 ―――Ver5.8 笑う炎 終

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