Ver5.7 緑の炎と軍用オートマトン

 おっさんの身体が燃え始めた。

 緑の炎に身体が覆われている。


 これが、件の人体発火現象――!


 突然のことにジゥとクソンも固まっていた。

 ただ私だけは、何かが引っかかっていた。


 なんだ――?


 緑の炎――?


 どっかで聞いたぞ――


 ハッとした。

 軍用オートマトンに襲われる前。

 幽霊が出る前。

 すれ違った男の言葉だ。


「緑の炎」


 男の声が、再び頭の中で響いた。

 そして、男の末路も――

 私は咄嗟に助けようと印を結んだ――が。


「ちょっと待ってください」


 ジゥが制止してきた。


「ああ!?」

「何かがおかしいです」

「身体が燃えてんだからそりゃおかしいだろ!」

「そうではなく。これは……なんですか?」

「何って、人体発火だろ」

「本気で言ってます?」

「実際に燃えてるだろうが」

「燃えてるから人体発火なんですか?」

「禅問答したいわけじゃねーんだよこっちは!」

「クジ、もっと落ち着いてよく見てください」

「はぁ?」

「人体発火は科学的な現象です。それに、闇手術が原因で動作不良からの発火なんて珍しくありません」


 そう言われて、急に頭が冷静になった。


 確かにそうだ。

 今や人類の9割近くがオートマトン化手術を受けているこの世界。

 動作不良からの暴走、爆発、発火は別に珍しくない。

 そうなると、自分は何に驚き、恐怖を感じた……?

 それは1つしかない。


「あの炎が原因ですね」


 同感だ。

 あの炎が、を起こしている。

 間違いなく。


 ただ、それが何なのか、エラーコード九十九なのかが分からない。


 そもそも、あんな炎初めてみるからだ。


「……どうする?」

「危険ですが……こっちから仕掛けてみましょうか」

「おっけー」


 私は素早く印を結び、九字を切る――


 と、緑の炎がこちらへ迫ってきた。


 飛びかかってきた、と形容できるだろう。


 つまり、この炎は状況を飲み込めると言うことだな?

 やっぱり、何かあるな。

 おもしれぇ、受けて立ってやるよ!


「クジ! 避けて!」


 クソンの声。

 その声に従って咄嗟に後ろに飛び退いた。


 すると――


 ものすごい地鳴りが響いた。

 地鳴りだけではない、地面が大きく凹んでいる。

 

 その光景を見て、私はデジャブを感じた。

 

 さっき、ビルで起きたことまんまだ。


 つまり、これは――


 あの軍用オートマトンの仕業だ!


 凹んだ地面から、あのゴツゴツとした足が出てきた。

 そして、あの光る目でこちらをギロリと睨んでいた。

 

 やっぱり全部同じ奴の仕業なのか?

 となると、エラーコード九十九はどこに起きている?


 色々な可能性が頭を埋め尽くしていく。

 少なくとも、確かなことが一つある。


「最悪だ……」


 堪らず声が漏れた。


 だが、次の瞬間。

 予想だにしない展開が起きた。


 軍用オートマトンは。

 炎に向かって突っ込んでいったのだ。




 ―――Ver5.7 緑の炎と軍用オートマトン 終


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