episode10 accept5/6

「こちらアーマーピアシング。オンスロート8ダウン」

 爆発炎上する残骸から大型へ視線を移す。首を右に向け新たな目標へ狙いを定めている所であったが、不意にこちらを向いた。

 反射的に高度を落としながら機体を右に。

 一瞬何かが見えたと思えば衝撃が機体を揺らした。

 アラート音が鳴り響く。中央ディスプレイに左エンジン停止の表示。右エンジンも出力低下。燃料が漏れ出し、フューエルカットオフバルブが閉鎖。燃料を止める。

 サイクリックスティックを操作するが操縦が効かない。

 徐々に地面が近づき、低速でビルに衝突、横転しながら地面に墜落した。

「アーマーピアシング、こちらオンスロート1。聞こえるか?」

 データリンクが途切れ、アーマーピアシングから送られていた情報による表示が消失。異変に気付くとすぐさまオンスロート隊長が通信を行う。

 返信はない。

 アーマーピアシングコクピット内、破損し変形したフレームがフライトスーツを貫通、表皮から筋肉組織まで開放。外側広筋、中間広筋及び大腿直筋に大きな損傷、各血管より血管外へ血液流出。

 大動脈、外部より圧迫開始。血液流量低下、出血量低下。

 左前足中足骨より末節骨まで粉砕骨折、周囲組織損傷。内出血により損傷部圧力増加。周囲組織圧迫。

 第7から第十肋骨まで粉砕骨折。

 腕部各部及び頭部数カ所に刺傷。

 機体アビオニクス群外部衝撃により機能喪失。機体構造変形、左エンジン欠損、右エンジン再始動不可、メインローターブレード変形もしくは機体より分離。

 オンスロート車長、救助を検討するが救助活動可能な部隊及び救助を支援する部隊を割くことが出来ないと判断。部隊配置を確認。戦力の損耗から撤退を決断。

「フルフォース1、こちらオンスロート1。撤退する」

「了解。シェルターはどうする?」

 フルフォース隊長が自部隊とマスターフェンサー小隊が押し留めている無数の小型へ目を移す。

「これ以上は無理だ」

 明確な後悔の色をフルフォース隊長が無線の少しザラついた声から感じ取った。部隊の犠牲と市民を置き去りにする事両方への後悔だと、感じた。

「なら、迅速に動く。すぐに退路を確保してくれ」

「了解」

 部隊の位置を確認し終えたオンスロート隊長が指示を飛ばす。

「オンスロート3、6。こちらオンスロート1。迂回してグレートウォリアーの左翼へ、退路を守れ」

「こちらオンスロート3。了解」

「オンスロート6。了解」

 2両が迂回する形でグレートウォリアー1の位置へと移動を開始する。

「フルフォース5、7、こちらオンスロート1。フルフォースの移動を支援できるか?」

「こちらフルフォース5。可能だ」

「こちらフルフォース7。弾が少ないが可能」

 弾が少ないフルフォース7は自衛能力がある内に早めに下げておきたい。そう判断したオンスロート隊長は、

「フルフォース5はその場でフルフォースの後退を支援。フルフォース7はグレートウォリアー右翼へ」

「了解」

「了解」

 一両はその場で攻撃を続行し、もう一両は旋回して歩兵部隊との合流に向かう。

「フルフォース1、こちらオンスロート1。もう2両空のを寄越してくれ」

「了解4、5を向かわせる」

 通信を切り、

「右だ」

 ガンナーに新たに現れた小型の位置を指示する。6.8mmが小型を薙ぎ払う。

「フルフォース4、5。グレートウォリアーと合流しろ。2、3はマスターフェンサーを収容。急げ」

 指示を理解した各々から返信が届くとフルフォース隊長は

「こちらフルフォース5。大型に狙われた」

「こちらオンスロート1。支援する」

 地図上を移動する点を追いながらフルフォース隊長が次の手を考える。自身は駅の近くにいるためシェルターの事を考えると避けたい。だが、味方が危険にさらされいるのであれば、仕方がない。距離もある、誘導すれば。

「こちらマスターフェンサー3。ミサイルで支援する。誘導を頼む」

「無理だ」

 遮蔽物から遮蔽物へ移動するフルフォース5車長が無線機に向かって叫ぶ。

「こちらオンスロート1。大型が射線から外れた」

 ビルの裏に行った為、オンスロート1が大型への砲撃を中止する。

「マスターフェンサー3、こちらフルフォース1。こちらで誘導する」

「了解」

 フルフォース隊長が地図上に座標を設置。

「フルフォース5。この座標へ移動しろ。マスターフェンサーが支援する」

「了解」

 続けてフルフォース隊長は、

「グレートウォリアー、こちらフルフォース1。そちらからもミサイルで攻撃してくれ。時間差で撹乱する」

「了解」

 フルフォース5ドライバーが大型の追撃を交わしながら目的地まで車両を走らせる。それを追っていた大型が大通りに出るとすぐさまフルフォース1の光学照準器が捉え、マスターフェンサー3へ位置情報を送る。

「マスターフェンサー3。撃て」

 マスターフェンサー3による携行ミサイルの一斉射撃が行われ、上空に上がったミサイルが大型の背中に直撃する。

 グレートウォリアーもミサイルを発射、誘導の終わったフルフォース1は素早くビルの陰へと姿を消す。

「撤収だ。乗れ」

 マスターフェンサー3隊長の指示で待機していたフルフォース2へ部隊が乗り込み、移動を開始する。

 死角からの攻撃に意識をそらされた大型からフルフォース5が逃げ切り、続いてグレートウォリアーによるミサイルが時間差で降り注ぐ。

 ミサイルによる攻撃が止む頃に大型周辺から部隊は撤退していた。

 しばらく周囲を警戒していたが、おもむろに駅の方向へ頭を向けた大型は口を開いた。そして、少し首を下げて狙いを下、地下へと向けた。

 走行中だったフルフォース1の光学装置がビルとビルの間を抜ける一瞬、その瞬間を映し出す。

「大型がシェルターを狙っている」

 無線にそう言い残し、

「次を左だ。対戦車ミサイル用意」

 急な指示に動揺しつつもドライバーがハンドルを左に切り、ガンナーは武装を切り替えて照準モニターに映った大型をロック。射撃ボタンを押す。

「下がれ」

 これまでの行動から大型がすぐさまこちらを狙ってくると判断し、フルフォース1が急速後退。

 大型は投射物を放つ。

 シェルター上部の通路を打ち砕き、本体にも一部損害を与える。続けてもう一射。シェルター防護層表層損傷、強度消失。 

 モニターにシェルターの損害が表示され、フルフォース隊長が大型の狙いを察する。

「ダメだ。引きつけられていない。攻撃する」

「了解、大型側面に出ます」

 グリップを回しアクセル。

 ターボチャージャー遠心コンプレッサー、吸入空気圧縮、シリンダー内部へ供給。エンジン吸気。

 クランクシャフト回転運動を上下運動へと変換、ピストン上昇、シリンダー内空気圧縮開始。

 シリンダー内圧力及び温度上昇。燃料発火点到達、圧縮空気600℃超過。圧縮燃焼噴射。

 混合気爆発、ピストン下降。クランク軸により上下運動を回転運動へと変換。

 キャタピラ駆動部回転数上昇、速度上昇。

 加速したフルフォース1が停車。砲塔より対戦車ミサイル発射。大型の頭部が少しブレ、投射物がシェルターより外れる。

「接近しろ」

「えっ!」

 無謀な指示にドライバーが躊躇し思わず声が出る。

「回り込め、図体がデカいんだ。頭の可動域にさえ注意すればいい」

「ですが」

「シェルターが潰れるぞ。その次は味方を狙う」

「了解」

 ドライバーがハンドルを傾け大型後方へ回り込む。死角に入ると25mm機関砲が作動。執拗な攻撃に大型が振り向く。

 フルフォース隊長、上部遠隔銃座操作用グリップを動かしスイッチを押す。発煙弾がグレネードランチャーから撃ち出されて大型の視界を奪う。

「食いついた。離れろ」

「了解」

 すぐさま瓦礫を乗り越え半壊したビルの後ろへ退避する。複数放たれた投射物の一つがビルを撃ち抜き、破片が車両後部を叩いた。

 上部光学装置を操作し大型が左後方にいるのを確認後、フルフォース隊長はドライバーに次の地点を指示して車両の状態をモニターに表示しておく。

 大型への注意をそらさずにさっと隊長がモニターに視線を移す。残弾はどれも少なかった。発煙弾は砲塔側面に搭載された物と、グレネードランチャーに3発。もう一度攻撃すれば弾切れ、発煙弾はまだあるのでもう一撃与えて撤退、フルフォース隊長は次の行動を即座に決定しドライバーとガンナーに伝える。

 左折した車両は大型後方へ。ガンナーが標的をロックしトリガーを引く。頭上から聞こえる音に合わせて残弾表示が減っていく、自衛の為に最小限のみ残してトリガーから指を放す。

 瓦礫を乗り越え激しく揺れる車内で各自のモニターに映る大型が大きくなっていく。大型が車両方向へ首を回すと砲塔側面ミサイルランチャーより対戦車ミサイル発射。

 更に接近すると砲塔側面スモークディスチャージャーより発煙弾発射、車両が進路を変更し加速。追加で上部銃座より発煙弾発射。

 大型は手当たり次第に腕を振るい、投射物を放つ。

「大暴れですよ」

「それでいい、闇雲に暴れた所でだ」

 これ以上の時間稼ぎは不可能なのでフルフォース隊長が撤退を指示、車両は大型から離れる。

 煙から抜け出そうと駆け出した大型がビルに頭を突っ込み、その衝撃でビルが崩れ落ちた。

 それを尻目にその場から全速力でフルフォース1は離脱し待機していた他部隊と合流。部隊は退却を開始した。

「フルフォース1、こちらオンスロート1。無茶したな」

「十分に時間は稼いだだろう」

「ああ、ここまでだ」

 自身と味方の表示から離れていくシェルターの表示を見ながら、オンスロート隊長は無意識にモニターに添えていた手を握りしめた。これ以上の戦闘は犠牲者が増えるだけであり、どちらにしろ民間人は守れない。その現実に彼は苦渋を飲んだ。

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