episode10 accept6/6
地図に電波障害範囲で範囲外へ移動する自部隊と、そこから溢れた小型にそれ応戦する第2の部隊が表示されている。敵は次々と溢れ出ている。
自身の乗るマーカーの先は電波障害範囲に触れようとしている。頭に着けた通信装置の位置を直し、画面を見つめる。表示が消え、データリンク復帰、複数のマーカーが新たに表示された。自分の部隊だ。
部隊状況を別モニターに表示、アーマーピアシングにオンスロート3、7の表示が赤く染まっていた。無事な部隊も戦闘継続は困難な状態であった。
「全部隊、こちらホールインワン。ドローン部隊を投下する。そのまま撤退しろ」
「こちらオンスロート。了解」
「こちらフルフォース。了解」
「こちらマスターフェンサー。了解」
「こちらグレートウォリアー。了解」
部隊の撤退ルートを選定しマーカー設置、ついで撤退ルート付近にドローン投下地点を指示。ドローン部隊の状況を表示すると投下シークエンスに入っていた。
部隊の撤退を見つつ、シェルターを見ると耐久値の限界で、内部で死傷者が出ている様子であった。
「トッド、シェルターに回せるドローンは?」
「ないな。ジョシュ、わかってるだろ」
「ああ」
わかりきっていた返答を聞き、無力感を感じる。いくらか投入出来るドローンはいるが、それを出してしまうと向かってくる小型が増えた場合や、大型に狙われた場合に部隊を守れなくなってしまう。
日本にいる人命を守るのも任務だが、それ以上に自分は部隊の兵士を守らなくてはならない。すでに7名戦死者が出ている。これ以上は出せない。
シェルター内で被害が拡大した事が表示される。
「ドローンを大型と交戦させる」
「バカ言うな」
「ドローン経由で第2に撤退を支援するようにメッセージを送ってくれ。自衛隊もいるだろ。外は問題ない」
連絡用に、メッセージデータを持って行き来するドローンを時間の関係で一機だけだが用意しているので、第2に支援は要請可能だ。
「わかった。それくらいなら大丈夫だろう」
モニター上に映る大型の周辺へ分散してドローンを投下して攻撃を開始させる。他のドローンの指揮はトッドに任せておいた。
右モニターに映ったドローンからの映像には崩壊した町並みが広がっていた。遮蔽物が少なく戦いづらい。とにかく大型の注意をシェルターからそらすことが最優先だ。
小型が接近しないように車両型2機を小型の相手をさせ、残りドローンを大型周辺へ分散配置。車両型は大型後方より攻撃を開始させ、4足型は全機で攻撃。大型が周囲を見渡してから対戦車ミサイルを叩き込んだ車両型へと頭を向けた。即座に車両型を下げ頭部左右斜め後方へ4足を集中させ攻撃。
「ホールインワン、こちらスリーポイント。了解。撤退を支援する」
外からの通信が連絡用ドローン経由で送られる。
頭を右に向けたので左にいた車両型と4足に攻撃させつつ、右4足は大型後部へ回り込ませる様な動きをさせた。密集しているとやられるのである程度各機に間隔を取らせておく。
「爆撃出来ないか聞いてくれ」
「了解」
手が離せないのでトッドに通信を頼みながらモニターを操作する。
「爆風でシェルター内の人間が死ぬから駄目だ。それと自衛隊の追加部隊が到着した」
トッドが単調にメッセージを読み上げた。
空爆は駄目だが陸上戦力の投入はありがたい。とは言ってもこちら側までは来ないだろう。来ても消耗して終わりなので出来るだけ温存しておいて欲しいが。
モニター上の部隊が徐々に電波遮断範囲の境界線へとと近付いていく。大型の足止めをしているドローンの数がいくらか減る。
遮断境界線近くの反応が消える。
驚いて右モニターを見ると大型が斜め上方向に口を開いていた。
「不味いぞ」
思わず口からそう溢れる。
「撤退を急がせる。俺達もだ」
トッドが無線を飛ばす。
ドローンにスモークを使用させる。車両型からスモークが撃ち込まれて大型を煙で包み込む。それだけでは大型がシェルター方向へ行く可能性があるので、反対方向へ配置を変更して攻撃を行わせる。
「コクピットに状況を伝えた。任意で指示を」
「了解」
大型がモニター方向へ突っ込み、口を開くと映像が途絶えた。左に視線を移すと遮断境界線外へ地上部隊が消えていくのが見えた。
「コクピット、撤退だ」
囮役の飛行ドローンを含めた全ドローンに対して自立モードへの切替信号を送った。
自分の制御を離れたドローンがガイジュウから距離を取りながら回避と攻撃を繰り返す様になる。飛行ドローンは撹乱電波を発する。
これでしばらくは持つだろう。そう考えていたが、モニターに映る大型は頭を上げて口を開いた。ドローンの位置関係から頭を向けている方向を推測する。大体、こちらであった。
「コクピット、高度を下げて回避行動」
返答よりも先に機体が沈み込む感覚。直後、背後で爆発音。何かが風を切る音。金属が破断する鈍く弾けた音。
後ろを向くと窓の外で回っていたローターブレードが消え、エンジンも半分ほど消し飛んでいた。機体がガクンと傾く。
「捕まれ」
シューティングスターパイロットの声がして機体が揺れる。地面に墜落して粉々になる映像を思い出す。イメージが恐怖を駆り立て激しい振動がそれに拍車を掛ける。
「トッド、どうすればいい?」
「しっかり、掴まってろ」
左から半ば叫び声に近いデカい声。
「死ぬときゃ一緒だ。そして俺は明日もメシ食ってる」
「だった」
訳がわからない会話を再度の爆音が途切れさせ、視界が激しく揺れた。
ぼんやりとした視界が続く。揺れていない。
耳鳴りに加えて頭も痛い。いや、全身が痛い。
シートベルトを外した所で疲れて腕を下ろす。
深呼吸、吸って吐く。もう一度、もう何度か。
はっきりしてくる。
「トッド」
左を見た。頭を垂れたトッドがいた。咄嗟に腕を掴む。脈はあった。
「起きろ、トッド。おい、ガイジュウの餌になるぞ」
「あー、ああーーー。クソ、あー」
喉から謎の声を絞り出しながらトッドがシートベルトを外す。
「大丈夫か?」
「脚が痛い」
青い顔から視線を下げると右足が外側に開いていた。どう考えても正常では無かった。
「ちょっと待ってろ。コクピットを見てくる」
椅子から立ち上がり40度ほど傾いた機内を歩いてコクピットを覗く。
苦しげな声を上げるパイロットがいた。副パイロットは朦朧としているのか頭を小さく上げ下げしていた。
「おい」
副パイロットの肩に手を置く。軽く叩きしばらくするとこちらを向いた。
「指揮官」
「大丈夫か?」
「ん? ええ、はい」
不安になる返答の仕方だったがとにかく意識ははっきりしつつあるようだ。もう片方にも声をかける。
「大丈夫です。少し落ちつきました」
「立てるか?」
「もう少し時間を下さい」
「わかった」
副パイロットへ向き直り、
「トッドが足を負傷している。こっちは任せた」
「了解」
コクピットからトッドの元に戻り、応急処置を済ませてまたコクピットへ戻る。
「ここから出るぞ。外の部隊と合流する。行けるか?」
正確な墜落地点は不明だが、撤退していた際の飛行ルートからして遮断境界線に近いはず。墜落した音などで小型がここにやってくる可能性もある。離れるのが無難だろう。
「はい」
「もう大丈夫です」
パイロット二人が頷く。
「よし、先に行ってくれ。トッドは俺が運ぶ」
「ですが」
「俺が絶対に遅くなる。先に行って部隊と合流してくれ」
パイロット二人は少し思案してから、
「了解」
と返した。
パイロット二人が備え付けの銃を持って砕けたキャノピーから外に出ていく。余った銃を手に取ると後ろへ戻る。
「行くぞ、ほら、持て」
持っていたハンドガンを渡し、ファイヤーマンズキャリーでトッドを運び、一度周囲を確認してから外へ出た。パイロット二人はすでに見えない。
一度トッドを担ぎ直してから足を早めた。訓練で何十キロのベルゲンを背負って何十キロも歩いたんだ。トッド一人担いで数キロなんて目じゃない。余裕だ。
心拍数が上がる。焦りそうになる。だが、ここで慌てたら俺だけじゃなくトッドも死ぬ。
親友の命を文字通り背負っているという状態と、まだ小型が接近する音が聞こえない状況が冷静にさせた。第二も向かっている。問題ない。
「ヤバかったら置いていけよ」
左側からトッドの声が聞こえる。冗談言うような口調であった。
「バカ言うな。明日もメシ食うんだろ。今度ステーキ奢ってやる」
「本当か?」
少し笑ったトッドがそう訊ねてくる。
「ああ、俺も食いたい」
「良いね。好きなだけ食おう」
いつもの調子に戻った親友を背負って足を早める。
「上、見えてると思うか?」
「見えてるだろう。それより警戒は俺がやるから前だけ見ててくれ。転んだらまた大怪我だ」
時折、左右の道やらを確認していたがトッドが言うならそうした方が良いだろう。瓦礫の転がる車道を見ながら進んでいく。
1キロ程進んだ所で背後から地響きが聞こえてくる。
「来たか?」
「まだ見えねえな」
両腕でトッドの腕と足をしっかりと固定して速度を上げる。地響きは大きくなる。
「こっち見た。見たぞ! 走れ、走れー!」
トッドの胴体で後ろは見えないがガイジュウの足音が聞こえてくる。続けて発砲音。
「来てるぞ」
「撃て、撃て」
「撃ってる」
射撃音に混じってトッドの叫び声。
足が重く感じる。だが、ここで脚を止めたら後ろからやられるので止められない。
「右だ。右の車の後ろへ」
咄嗟にサイドミラーを掴んでそれを軸に車の後ろに回り込み、勢い余って倒れそうになるが何とかミラーから離した手をついてしゃがみ込む。
すぐ脇をガイジュウが突っ込んで瓦礫につまずいてひっくり返る。が、その瞬間も頭をこちらに向けていた。
ホルスターからハンドガンを引い抜いて引き金を引く。外骨格が多少欠けるが貫通はしない。一応、今まではハンドガンでも何とかなったはずだがこいつらは違うらしい。
せめて同じ所を狙えば効果はあるか?
「頭狙え」
自分とトッドの銃弾が小型の頭に当たり外骨格を砕くが、もうすでに飛びかかる寸前だった。
伸ばした腕の先に握られたハンドガンの、サイト越しに害獣と目が合う。一瞬、視界が赤く染まる。赤い光がチラチラと舞った。
思わず瞬きしそうになるが、目を閉じずに引き金を引いた。
弾丸が小型の外骨格を撃ち抜いて狼みたいなガイジュウが頭から地面に突っ込んで動かなくなった。
「左」
トッドの声で左の新手に銃口を向けて撃つと外骨格を貫通して相手が怯む。
周囲にいた数体を仕留めて周囲を確認した。安全な状態なのがわかるとふと、空の異変に気づいて上を見る。丸く空いた空間からぼやけて揺らぐ何かが見えた。鋭角なシルエットの宇宙船にも見える赤い光を纏ったそれは瞬間、消えた。何かは解らなかったが鏃に似た鋭角な物体であるのだけはわかった。
「今の」
「何だ?」
トッドは見ていなかったのか自分の視線の先を追って首をひねっていた。
「いや、いい。とりあえず部隊と合流だ」
「あ? ああ」
立ち上がりまた駆け足で進んでいくと装甲車両の重いタイヤ音が聞こえ、すぐに遠く迷彩が見えた。
「お迎えだ」
「さっさとピックアップだ」
背負われた状態のトッドが手を振る。空いた手で自分も手を振った。
「乗ってください」
側面に赤い十字の描かれた装甲車が止まり、後ろから現れたら兵士が催促して共にトッドを車内に運んで乗り込む。ハッチが閉まるとすぐにエンジンが回転数を上げて車両がUターン。
「パイロットがいたはずだが」
隣の兵士に訊ねる。
「別の車両で回収済みです」
そこで無線が入る。
「こちらスリーポイント。電波が回復した。繰り返す。電波が回復した」
電波遮断境界線を超えていないはずだが外からの無線が流れる。
電波遮断が消えた?
「大型に何かしたのか?」
「いえ、救助が完了するまで大型へは攻撃をしないはずです」
なら、他に起きたことといえば先程の小型の脆弱化と空に現れたらアレ。
「無線を貸してくれ。第2の指揮官に伝えたいことがある」
「はい。こちらを」
助手席の兵士から受け取った無線機のボタンを押す。
「スリーポイント、こちらホールインワン。小型への攻撃効果に変化は?」
「こちらスリーポイント。どういう意味だ?」
「先程交戦の際に外骨格強度の低下が認められた。電波遮断の消失と共にガイジュウが脆弱化している可能性がある」
「了解。確認する」
無線が途切れ、5分ほどすると再度通信。
「ホールインワン、こちらスリーポイント。小型の脆弱化が確認された。大型への攻撃を検討する」
「了解。シェルターへ注意を」
「わかっている」
無線機を返して背もたれに体を預ける。
「さっきのか」
「ああ、戦況が変わると思ってな」
簡易ベッドに横になったトッドに言葉を返す。
「だといいが、大型は」
遠く爆発音。展開していた飛行ドローンに積まれた対戦車ミサイルだろう。
トッドが一度口を閉じてからまた開き、
「爆撃。大型か」
「効果は?」
「あるはずだ」
今までの状況から疑問を口にした兵士に妙な確信を持って答えた。本来こういう気持ちは危険だが今は悪いものではないと思えた。墜落時に頭を打ったのかもしれない。
「了解」
無線を受けたドライバーの声が聞こえた。しばらく後、細かな地響きと共に自衛隊の部隊が大型を仕留めに行くのが見えた。
設営された自衛隊の救護テントに突っ込まれて手当が完了する頃には自衛隊と第2による苛烈な攻撃に晒された大型は駆除され、小型も一匹残らず皆殺しにされた。
「作戦は終了しました」
そう自衛官に告げられたときになってようやく全身の力が抜けた。だが、重たい物が私の背から下りる事はなかった。
無力感と後悔、悔恨の情だけが残った。
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