episode10 accept4/6
二百メートルほど先にいるデカいガイジュウが口から空に向かって何かを射出した。上空のアーマーピアシングを狙った訳でもない攻撃を一瞬訝しむが、すぐに車長は状況を理解した。
司令部とのデータリンクが途切れ、モニターの一部表示が消失、通信状態状態を確認すると電波障害範囲内のみ良好となっていた。
「全部隊、中継部隊がやられた。データリンクは部隊単位のみだ」
「こちらフルフォース1。退路を今すぐ確保してくれ。こちらからは突破困難」
事前にもしも通信が途切れた場合は退路を確保して交戦、こちらの攻撃が通じないようであればそのまま撤退となっていた。
「了解。だが、出来るだけ時間を稼ぎたい。市民を置き去りにできない」
「こっちがやられるぞ」
オンスロート隊長に対してフルフォース隊長が難色を示す。
「市民を守るのも任務だ」
「了解」
互いに通信を切り部隊へ指示を出す。
「オンスロート4、5、7。指示座標へ向かい小型を抑えろ。残りは攻撃」
オンスロート隊長がモニターに座標を設置、そこへ三両が移動を開始し他は射撃を行う。
「オンスロート、こちらグレートウォリアー。合流待機する」
設置した座標でグレートウォリアーが小型に対して銃撃を加えて抑え込む。
「オンスロート、こちらアーマーピアシング。移動を支援する。こちらの射線に気を付けろ」
4、5、7の移動開始地点後方へ移動し、アーマーピアシングが大型へ下部機関砲を発射する。
「後ろの交差点まで後退し右側に行け2つ目の交差点で停止、APを撃て」
ドライバーとガンナーに指示を出してから通信機のボタンを押し、
「オンスロート2。付いてこい」
「了解」
2両が後退して右折、大きな交差点で停止する。
オンスロート3、6、8各車長が自身の方向へ口を開いた大型を視認し、左右に散開、ビルの裏へと退避する。それに対して大型は右にあるビルへ投射物を撃ち込む。
オンスロート6に至近弾。投射物により吹き飛ばされたビルのコンクリートと共に着弾の衝撃で砕けたアスファルトが車体右側面を叩く。轟音が車内に響き、左サスペンション郡が大きく収縮し衝撃を制御する。
「クソッ! 野郎、遮蔽物ごとブチ抜く気だ。直進するな、左右に回避しろ」
「了解」
車長の指示にドライバーがハンドルを傾ける。トルクセンサーにより操舵トルクを検知、エレクトリックコントロールユニットによりアクチュエーター作動、タイロッドを伸縮、タイヤが偏向。車体が左へと曲がる。
「こちらオンスロート6。大型に狙われた」
「回避に専念しろ。こちらで対応する」
大型が前進しながら投射物を放つ。
「こちらフルフォース1。駅正面の道なら支援可能」
「ダメだ、シェルターがある」
大型の注意をシェルター方向へ向けたくない為、フルフォース隊長の提案をオンスロート隊長が却下。
「了解、2両そっちに回す」
「指定座標へ」
モニターのマップに座標を設置し、オンスロート隊長が正面に現れた大型を映したモニターに視線を移した。
「撃て」
指示と共に即座にガンナーがトリガーを引く。電気式撃発装置により雷管作動、装薬燃焼開始、圧力上昇700Mpa。膨張した燃焼ガスにより弾頭が砲身内空気を圧縮しつつ前進し加速。押し出された圧縮空気が砲口より漏れ出し、続けて120mmAPFSDSが時速1700km/mで射出。
砲身後退、駐退機リコイルスプリング収縮により発射時反動吸収、緩衝。
装弾筒が空気抵抗により侵徹体より分離。
狭い砲身から装薬の燃焼により生成された高圧ガスが開放され排出、砲身内圧力低下。
タングステン侵徹体、大型体表高粘度気体層により運動エネルギー低下、速度低下。
目標左側頭部へ着弾。
侵徹体座屈、中部より破壊。
大型害獣外骨格損傷極めて軽微。
「こちらオンスロート1.大型にスモークを放つ」
オンスロート1車長が砲塔上部遠隔銃座を操作するグリップを握る。12.7mm機銃右側面に設置されたグレネードランチャーから発煙弾が発射される。大型頭部付近で炸裂、視界を奪う。
視界を奪う煙を払うように頭を振り、大型が数歩下がる。
「下がれ、右の道を直進しろ」
車長の指示で後退して交差点で進路を変更。オンスロート2もそれに続く。
「こちらアーマーピアシング。大型が回頭」
「オンスロート3、8。背後から攻撃しろ。アーマーピアシング、支援可能か?」
「可能だ。攻撃を行う」
「オンスロート1、こちらフルフォース5。7と共に指定座標へ到着。側面よりガイジュウへ攻撃可能」
地図を確認し、大型後方にオンスロート3、8側面にフルフォース5、7。離れた位置にオンスロート6、現在大型後方へ回り込もうとしていた。更に離れた位置にはグレートウォリアーとオンスロート4、5、7が小型を抑えていた。小型はやや拡散気味にあった。
フレンドリーファイア等の問題がないとわかるとオンスロート隊長が無線のボタンを押した。
「攻撃を許可する」
「了解」
ガイジュウ後方より120mm徹甲弾、側面より25mm多目的榴弾、上空より30mm多目的榴弾が撃ち込まれる。
「グレートウォリアー3、こちらグレートウォリアー2。小型がそちらへ流れた」
「了解、対処する」
軽機関銃を装備した兵士数名が右の道から現れた小型へ制圧射撃。他の兵士は撃ち漏らしへ6.8mmを撃ち込んでいく。空薬莢が周囲に飛び散り、高い音を立てて転がる。
「リロード」
自身の状況を口にしつつ軽くなったマガジンを交換し、
「クソッ、弾が」
十分に所持してきたはずの残りマガジンの数を見て悪態をついた。今までなら同じ数の敵を倒すのにここまで弾薬を消費しなかったという事実が兵士を焦らせた。
「正面、来たぞ」
アサルトライフルを構えた兵士が伝令。交差点から無数の小型が姿を現し、一部が兵士に気づいそちらへて突進する。右の小道へ火力を集中させていた配置から正面に銃口を集中させる。脇をドローンで固める。
「こちらオンスロート7。射撃を開始する」
グレートウォリアーに囲まれたオンスロート7が榴弾を発射。小型がまとめて吹き飛ぶ。後続が雪崩のように現れ、次には榴弾により爆砕する。僅かに兵士へ向かってくる残りには銃弾が降り注いだ。
「数が少ない」
「ほとんど俺達を無視して直進してる」
左のビルの陰から現れる小型の群れの半分はそのまま素通りして右のビルの陰へと消えていた。
「回り込むつもりか? 警戒しろ」
正面以外を警戒する兵士達が神経を尖らせる。だが、正面以外から小型はこない。
「あいつら、そのまま右に行ってる」
ガイジュウの意図に気づいた分隊長が無線ボタンを押す。
「こちらグレートウォリアー3。小型が南東に流れた。大型のいる方に移動している」
「こちらオンスロート1。了解」
報告を受けたオンスロート隊長がモニター上に映る地図へ視線を移す。データリンクにより繋がったグレートウォリアー3とオンスロート7が表示され、そこから南東には2両のフルフォースからの増援がいた。
「こちらフルフォース7。後方より小型多数。迎撃の為大型への攻撃を中止する」
敵の意図を察した時には遅く、フルフォース5及び7は砲塔を旋回していた。
「アーマーピアシング、こちらオンスロート1。小型の動きは見えるか?」
「フルフォース5と7の方へ移動しているのが見えるだけだ。確認するか?」
「いや、いい。大型を攻撃してくれ」
「了解」
オンスロート隊長が地図上の大型の位置を見てから視線を別モニターへ移す。そこには口を開こうとしている大型が映っていた。顔の先には駅、シェルター。
ガンナーが射撃を行うが相変わらず損傷はない。隊長はアーマーピアシングかフルフォースへ攻撃支援を求めようとしたが、大型が突然口を開いたまま左を向いた。オンスロート1、2の乗員達がモニター上に体高20m以上のガイジュウの視覚を認識する。
「下がれ!」
咄嗟に叫ぶより早くドライバーが交差点に置いていた車両を前進させる。車両の数メートル後方に投射物が着弾、オンスロート1が進行方向に傾き、オンスロート2の車両前部が浮き上がる。
ガンナーが90度右に回していた砲塔を正面に戻す。
ビルの後ろに回ってからすぐにオンスロート1の付近にもう一発が着弾、下からの衝撃で体が一瞬で浮き上りハッチや計器類に頭やら肩やらを乗員達がぶつける。
「大丈夫か?」
「はい。車両も、問題ありません」
計器類が異常を示していない事を確認しドライバーが返答、
「こちらも」
続けてガンナーも。
「こちらアーマーピアシング。大型の側面から攻撃する」
サイクリックスティックを傾けたアーマーピアシングパイロットがレーザーを照射。効果は見受けられない。大型の顔の先には2両の車両が見える。バイザー上の表示には先頭が1後ろが2という表示。
「こちらアーマーピアシング。対戦車ミサイルを使用する」
「次の角を曲がった所で撃ってくれ」
「了解」
オンスロートへ注意喚起を行いつつ、親指をスイッチへ近づける。ビルとビルの間に2両が消えると親指に力を入れた。
振動と共に対戦車ミサイルが発射され、白い煙を引きながら害獣肩部へ命中する。その背後からオンスロート3、6、8からの攻撃が加えられる。
オンスロート1、2を狙っていた大型が背後を振り向き、投射物を連射する。
「下がれ」
砲塔を右斜に向けてビルの角を遮蔽物に射撃を行っていたオンスロート8が後退、車道を進む。他2両も散開する形で回避行動を取っている。
オンスロート8車長は自座標と大型の座標を比べながら射撃位置を設定。
「この地点で攻撃、即時離脱だ。狙いをつけさせるな」
急ターンを行い、ハンドルを捻りアクセル。エンジンが唸り速度を上げる。時速50kmで直進するが、途端、ガラスが砕け散り瓦礫が車両に降り注ぐ。
分厚い金属板に重量物が幾度もぶつかる衝撃音が車内を揺らす。
「突っ切れ」
車両が加速して降り注ぐ瓦礫を突き進む。
横から爆発、鉄筋コンクリートが12ゲージの如く高速で飛散して、爆発の様な衝撃を起こした高硬度鏃状投射物が車両前部に直撃する。
意識が飛ぶ。
キーン、と金属音がなっている。酷い耳鳴りがする。
頭を上げると画面にヒビが入った上部光学装置からの映像を映すモニター。そこにはガイジュウ、口を開いていた。
「クソッタレ」
オンスロート8車長の脳裏に妻と息子がよぎった。
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