episode10 accept3/6

「ジョシュ大尉、すぐにブリーフィングルームへ」

 上官からの指示で同じ建物の違う部屋へと移動する。部屋には上官、第2の指揮官がすでにいた。

「さあ、面倒な事になったぞ」

 私の顔を見て上官がそう言った。

「電波障害は」

 そこまで言って上官に遮られる。

「支援部隊が有線の中継装置を準備中だ。それより、あの大型ガイジュウをどう仕留めるかだ」

 準備が早いな。まあ、ガイジュウによる電子的妨害は前々から想定されていた事であり、半分くらいは想定の範囲内だ。今の所。

「空爆はナシと?」

「そうだ。あの大型。特に大きく、120mmに傷もつかん。動きもしない」

 上官がモニター上の大型ガイジュウの画像を示す。しかも、3両からの一斉射撃を数回行って損傷なしときた。

「飽和攻撃位しか」

 第2の指揮官が渋い顔をする。飽和攻撃、撃って撃って撃ちまくるという訳で実質お手上げという意味であった。

「とにかく、空爆で一気に叩いてもらわなければ。あれだけ攻撃してピンピンしてるならいくら撃った所で、では?」

 上官が少し私を睨んでからため息を吐き、

「わかってる。自衛隊には私が掛け合う。だが、近くにシェルターもある」

 少し沈黙してから続けて、

「第2は電波障害範囲外で小型の対処。大型は第3で行え。大型が突っ立てる間に仕留めろ」

「了解」

「了解」

 なぜかは不明だが大型が動き出していない今がチャンスだ。

 時間が惜しいので手短に第2の指揮官と作戦のすり合わせを行い、指揮所へ戻る。

 部隊状況を確認し出撃指示を出して電波障害を迂回するための有線通信装置を設置中の工作部隊へ通信を繋げる。

「敷設部隊、こちらホールインワン。状況は?」

「あと7分で完了します」

「了解」

 中央モニター上のアーマーピアシングが先行して電波障害範囲へ侵入。各マーカーは健在。

「迂回通信は正常だな。予定通りに行くぞ」

 すでに各部隊の目標地点は設定しているので各部隊がそこへ向かって移動をしていく。

 右モニターで大型の様子を確認する。まだ動いていない。中央モニターへ視線を移すともうじき配置に着くところであった。

「ホールインワン、こちらアーマーピアシング。大型が動いた」

 右モニターをタップしてアーマーピアシングの光学装置からの映像へ切り替え。ゆっくりと外殻が開いてズレ、体側につけていた腕と揃えていた足を伸ばして4足歩行の鮫的な姿へと変わる。戦術支援AIが警戒対象から臨戦対象へと切り替える。

 4足で立ち上がったそれが屈む。

 AIの反応は変わらなかったが次の行動は良くないと察し、フルフォース2、6がまだだったが攻撃を指示。

 一斉に主砲による射撃が行われ、命中。少し体勢を崩したガイジュウは前につんのめる様に百メートル程先にある駅へ頭を突っ込む。

 行動を阻害したかと思えたが、すぐに中央モニターにシェルターの損傷が表示。

「アーマーピアシングに背後を攻撃させろ。シェルターから注意をそらせ」

 武装制限を設けつつ指示を出す。

 オペレーターに指示を出しながら大型の後方へマーカーを設置。自動でナンバリング。グレートウォリアーを随伴させたオンスロートを向かわせ、開いた左側面にフルフォースを分散して配置。マスターフェンサーは最もシェルターに近いフルフォース6、2の近くへ。

 指示を出してアーマーピアシングの位置を確認。

「アーマーピアシングを下げる」

 指示した座標へアーマーピアシングが後退していく。下手に上空から攻撃するとシェルターに被害が出る危険がある。こちらの攻撃で人命が失われては目も当てられない。

「マスターフェンサーに携行ミサイルでポップアップダイレクト。タイミングはズラせ。続けてフルフォースに対戦車ミサイル一斉射」

 指示が伝わる間にオンスロートの配置を少し変更。

 戦略支援AIがフルフォースのいる南西付近で小型が包囲に向かう動きがあると警告。中央モニターの赤い警告エリアの詳細を表示。そこまで多くはない。

 警告表示を消去。フルフォースは分散配置しているのでこの程度であれば逆に包囲し返せる。今はドローンに小型を任せて大型をどうにかした方がいい。

 右モニター上でマスターフェンサーがビルの陰からミサイルを発射、打ち出されたミサイルは上昇後、高度を下げて大型の側面に命中。断続的な携行ミサイルの攻撃後、フルフォースによるミサイルの一斉射射撃が行われる。

「オンスロート攻撃開始」

 座標を調整しておいたオンスロート全車両から120mm徹甲弾の一斉射撃が敢行される。

「射撃中止」

 シェルターから引き剥がすのが目的のため一度攻撃を中止させて右モニターで様子を見る。

 シェルターへ攻撃をしていた大型は背後へ頭を向け、腰を低くした。

「オンスロート、下がれ」

 中央モニターを叩いて扇状に座標を設置。すぐにオンスロートが後退を開始。

 元々オンスロートがいた場所に大型が突進して飛びかかる。

 日本の一軒家よりもずっと大きな巨体が街頭や並木をなぎ倒し、アスファルトを捲りあげる。

 オンスロート3、6、8が真正面から攻撃を加え、残りが左右から攻撃を行う。

 フルフォースの一部も背後へ回しておく。

「一つに注意を向けさせるな。撹乱しろ」

 的を絞らせないように部隊が移動を繰り返し、大型の注意が散漫になっているのを確認する。

「シェルターから放す。オンスロート3、6、8の方向へ誘導しろ」

 各部隊の座標を調整し、大型を少しずつシェルターから放していく。シェルターから離れれば空爆も出来るだろう。

 車両部隊の攻撃と共にグレートウォリアーによるフレアやスモークを利用した撹乱を行い、大型の行動を抑制しつつ移動させていたが動きが変わる。

 オンスロート1、2の方向へ首を振っている。的を絞る気か?

「オンスロート1、2へ注意喚起」

 指示とともに座標を移動させる。だが、大型は同じ方向を向いている。西側。

「様子がおかしい。後退しつつ攻撃。一度距離を取れ」

 何かするつもりか? いや、するだろう。だが、何を?

 映像を上空のドローンからオンスロート3へ切り替え。

 右モニターに映し出された大型が上を向く。口を開き、何かが射出された。

 SIGNAL LOST

 画面から一部表現が消失し、下に小さくそう点滅。

 中央モニターには通信が途絶した事により表示が、ドローンからの物に切り替わる。事前にドローンからの映像と部隊の識別を自動で行う設定に切り替えておいたのが功を奏した。対ステルス用のガイジュウ補足を併用しているので大型の判定も残っている。

 AIによる友軍損害報告が上がり確認、通信部隊。

 通信を中継していた部隊がピンポイントでやられていた。

「全部隊との通信途絶」

 ドローンからの映像に切り替える。ジャミング範囲境界線部に煙が上がっていた。中継部隊だった。

「指揮官、こちら第3。通信の復旧は可能ですか?」

「無理だ。すぐに準備できる機材と人を動かしたのがあれだった」

 たとえ用意出来てもまたガイジュウの攻撃を受けるだろう。

「部隊が孤立しています。時間が経つほど部隊も街への被害も増えます。彼らとの通信を復旧させなければ」

 撤退するか? いや、それでは民間人に被害が出る。それに攻勢が止めばガイジュウが行動範囲と電波障害範囲を広げるだけだ。

「現状、通信は第2を伝言役に電波障害範囲内外を行き来してもらうくらいだ」

 そんな事をしても指揮は出来ない。少数部隊に細かな指示と、全体的な状況を伝達する支援機が必要だ。指揮は不能で各個間でのデータリンクでは不十分。

 それに第2は拡散中の小型を迎撃する必要がある。

 それならば、危険だが、

「輸送機内で指揮を取ります。シューティングスターであれば常に偵察仕様です」

「落とされる可能性が高い」

「アーマーピアシングは健在です。対空能力に関しては高くは無いと」

「不明なだけだ。しかし」

 指揮官の声が思案しているのかスローダウンし、

「囮の無人機も飛ばす。ついでに無人機の指揮を適任者に任せる」

 明瞭な声でそう言った。

 通常部隊と無人部隊の2つを同時に指揮するのは困難であり、やはり二人体勢でないと十分に戦闘能力を引き出せない。

「トッドですか?」

「そうなるだろう。場数も踏んでる、そっちも連携を取りやすいだろう」

 続けて細かな指示を各方面へ流したりした。

「了解」

 通信を切り、椅子から立ち上がる。

「シューティングスター1に搭乗して指揮を行う。こっちで支援を頼む」

「了解」

 指揮所のオペレーター達を残して部屋を出て外のヘリポートへ向かう。道中、戦術バックアップデータの入ったドライブといくつかの端末があるかを確認しておく。

 建物を出るとすぐにヘリポートがあり、すでにティルトローター機がエンジンを回して待機していた。上空からは無人機が飛び立っていく戦闘機より軽いエンジン音が聞こえた。

 地上要員が手振りで合図していたのでそのまま後部ハッチから乗り込む。

「遅かったな。テスト済みだ」

 移動式通信機や簡易指揮機材等が積まれた中にトッドがいて、ヘッドセットを渡される。

「乗ったぞ。上げてくれ」

 座席に座りながらヘッドセットを頭につけて指示を出す。

「こちらシューティングスター1。離陸する。揺れるぞ、シートベルトを忘れないでくれ」

 シートベルトはつけているので指揮装置にバックアップデータ入りのドライブを挿し込み、読み込んでいる間に通信状況や各種データリンク等を確認。

 そうこうしている内に読み込みが完了。設定が先程までの指揮所と同じ設定になり、AIがバックアップデータを利用した状況判断を行える設定にしておく。これで電波障害範囲内でもAIが上手く支援してくれるだろう。だが、簡易指揮装置は地図を開いて駒を置かなくても良いように、コンソールが付いた通信機という程度の代物で信頼しきれない。最終的に頼れるのは自分と隣のトッドだけだ。

「リンクは出来ているか?」

「ああ、問題なしだ」

 トッド側の機材にも問題ない事を確認。

「準備はいいみたいだな」

「まあな」

 ローター音の響く機内から外を見る。ガイジュウ出現で避難指示が出ているので人気は全くない。

「空爆出来るのか?」

 トッドが抑揚を抑えた声で訊ねた。

「ちょっとならいけるだろう。だが、あのデカいのにはな」

 シェルターがある以上、難しい。大型をふっ飛ばすとなると大型爆弾が必要になってくる。

「どうするんだ?」

「撃ちまくる」

「冗談だろう?」

 片眉を釣り上げたトッドが首を傾げる。

「そうだ。やるとしても爆撃地点まで誘導するか、出来なければ大型を引き付けている間に別部隊が民間人を救助、無人になった所で爆撃」

 パッと思いつく方法を口にする。

「まあ、そんくらいか。自衛隊も黙っちゃいないだろうし」

 あそこの戦闘機が電波障害範囲に突っ込んでくれるとは思わないが。

「こちらコクピット。一分後に電波障害範囲に突入する」

 パイロットからの通信が終わる。窓から外を見るが戦闘は見えない、数百メートル先を飛ぶ無人攻撃機が見えた。残念ながらこいつの対地攻撃能力は多少の対地攻撃も出来る偵察機なので打撃力は望めない。そもそも、海洋国家の日本には本国で運用される対地攻撃ドローンは配備されていない。

 モニター上の通信状態を表す表示を見る。

 十数秒後、表示が遮断状態を示し、復帰。

 モニターに部隊が映し出された。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る