episode10 accept2/6

「それで、この観測データが意味するものは?」

「書いてるだろ」

 害獣絡みのデータを収集解析する特殊作戦群の対未知脅威情報部隊、人類以外の敵を相手にした俗に言うエイリアン観測部隊からのレポートから顔を上げる。俗称エイリアン観測部隊だが害獣出現により人類以外の脅威が確認された事で出来た部隊であり、火星を散歩する火星人を観察する訳ではない。

「いや、そうじゃなくて」

「言うことはないね。前に現れた3体の害獣は空間波を発していた。何かのシグナルではないか。それだけさ」

 トッドが肩をすくめた。

「そうなるよな」

「強いていうなら、これについてだな」

 手に持っていたタブレットをトッドがこちらに向ける。そして、ここの部分だ。と一文を指で示した。

 3体の害獣が放つ空間波に関し、人類で言う所のGPSに当たる物ではないか。という推測の一つであった。

「これが当たりの気がすると」

「トウキョウの観光地を仲間に教えてる訳じゃなさそうだしな。座標を送信していたのかもしれん」

「理由は?」

「何となくだ。支援攻撃を要請していたかも」

「3体を結んだ範囲内に何かしら攻撃を行う予定だったか。もしくは3体は囮で、複数で現れてこちらの戦力を出させてボーンとか?」

「かもしれん。あり得ることだ。すぐに空爆で二匹吹き飛ばして残りもアンテナ的役割の器官を損傷させたから何もなかったが、そうじゃなけりゃ、状況がひどく悪化していたかもしれん」

 言葉の終わりと共にトッドがタブレットを机上に置いた。

「あれだ。あらゆる可能性を考慮しろってやつだ」

「いい心がけだ。現実的ではないが」

 人間相手ならある程度有効だが、害獣相手には大して意味はない言葉だった。

「こんな事を考えるなら休んで体調を万全にしたほうが有意義だよ」

「言うなよ」

 明確に有効な対策がないのであれば、できる限り戦力の状態を良いものに保つのが最善の時もあるだろう。現状、日本からの要請や特定の状況であれば直ちにスクランブル可能。後方支援の準備もちゃんとある。

 そもそも、重目標多手段攻撃中隊は地上と航空の両戦力を同時に保有運用し害獣が出たら即出撃が可能という部隊運用を可能とすべく独立性が高い。それこそ特殊作戦群の中でも特殊というより、通常編成の部隊では扱いづらいので無理やりねじ込んだというくらいには。新しく対害獣作戦群を作っても良いくらいだ。あまりにも突然に出現した害獣に迅速な対応が求められたから仕方がないが。

 そして、害獣という未知の脅威に対応すべく機動力の高さに加えて部隊連携と柔軟性が重視され、一部旧式ではあるがそれを満たす装備を保有し、放射線等の有害な光線や大気にも対応するレベルAに準ずる装備を保有している。普段運用している装備もNBC防護が施されている。

 これだけ考えられる事をやっているのだ、これ以上と言われたらもう完全に独立した部隊にして、予算も増やしてもらうしかない。

「まっ、一週間以上経ったが特になにもない、偵察機も飛ばして観測も行ったが従来どおりだ。次の休みをどう過ごすか考えとけ」

 少々楽観的な意見をトッドが口にした。

「特にないよ」

「だから考えてだな」

「考えてもだ」

 呆れた様にトッドが天井を仰ぎ見た。

「帰りたいか?」

「当たり前だ」

「ここは嫌か」

「嫌じゃない。だが、母国とはとは違う。お前もここで一生暮らせと言われて未練は無いとは言わんだろ?」

「まあな。だが、俺は俺でここを楽しんでる」

 休日にあてもなくふらついて基地に帰ってマーズバー齧るのがここを楽しむ事と言えるのなら、トッドは日本を楽しんでいるのだろう。

「異国の地にこの血は馴染まん」

「雪に染みてこそか」

「そうだ。お前は違うのか?」

 窓の外、日本の風景を見ながらトッドが口を開く。

「山が近すぎる」

「結局じゃないか」

「俺達はアメリカ人だ。ただそれだけだ」

 なぜ、ここに自分はいるのだろうか?

 命令、これがなければここにはいない。

 じゃあ、なぜ、ここに居続けるのか? 日本にいるアメリカ人を守る為、だけではない。それだけを守る事を考えてなどいない。あくまで在日米軍というやつだ。

 だとしても友好国とはいえ異国の為に部下が死ぬのは解せない。アメリカの愛国者達は日本の為に死ぬ。もちろん、イエスのような心で人の為に死ぬことに未練を抱かない者もいる。だが、全員じゃない。

 アメリカの為に戦い死ぬことに躊躇はせずとも、異国の為に死ぬのは疑問や不満を抱く者もいる。

 当然、アメリカ人以外は、日本人を助けたくない訳ではない。同じ人間だ、救える命は救いたい。だが、その命を救うために仲間を犠牲にする可能性があるとなれば話は複雑になっていく。

 アメリカにも害獣は出る。ならそいつを倒したい。ニュースで被害を見るたびに胸が痛む。戦闘データが本国の対害獣部隊に渡って貢献しているとは言ってもやはり戦力は多い方がいい。

「やめよう」

 トッドが立ち上がる。そして、少し歩こうと言い出した。自分はそれに賛同した。

 建物から出てトッドの後ろを歩く。天気は良く蒸し暑い。

「暑いなー。クソアツイ」

「全くだ」

 見上げると太陽が眩しい。青い空に白い太陽が拡散してる。青よりも白に近い空だった。

 額から流れた汗が目に染みた。

「飲み物買う」

 いつもの唐突な発言に対し、同意して見せ売店へと向かった。冷えたスポーツドリンクを手に取り、視線を右に向けた。ガラスにトッドが指を向けていた。

「決まらないか?」

「まあ、待て。色々あるからな」

「こいつはどうだ?」

 トッドの前に持っていたボトルをかざして見せた。

「脳筋ドリンクはいらんよ。行軍訓練でもしてな」

 聞き慣れたアラート。続いて各部隊への指示。

 自分達第4は予備戦力として待機という予定通りの流れだった。

「行くぞ」

「お構いなしだな」

 二人で売店を出て各々の配置場所へと向かう。激しいローター音と共に第2の部隊を載せたアルバトロスが飛び立つ。

 予備戦力用の指揮所に入りモニターを見る。ガイジュウが一匹、街中に佇んでいた。これまでのものより一回り二回り大きい。

 中央モニターにはアルバトロス1、2を示す矢印。巡航速度でガイジュウ出現地点へ移動中。地上でも車両部隊が移動中。

 ヘッドセットからは第2の無線が流れる。アルバトロスからドローンを投下、離れた別地点に歩兵を降下させる予定らしい。

 アルバトロスを示す2つの矢印が散開。一瞬視線を移した右モニターには飛行する機体からの映像。鮫に似た楕円に近い形のガイジュウはまだ小さく見える。

 中央モニターの2つの矢印がガイジュウとの距離を詰める。

 見つめていたそれが消失。

 ALBATROSS-SIGNAL LOST

 撃墜された?

 右モニターには通信途絶を示す表示。高高度を飛行している偵察ドローンの映像へと切り替える。

 中央モニターに二機のボギー。タップして詳細を表示。偵察ドローンからの戦術リンクにより表示された物であり、レーダーに反応なし、光学装置により確認されIFF応答なし。

 自動撮影された拡大画像を見るとティルトローター機が映っていた。アルバトロスだった。

 中央モニター、ボギーが友軍へと表示が変更。第2の指揮官が変えたようだ。

 無線でアルバトロスへの呼びかけが聞こえるが反応なし。電波が遮断されているという結論にいたる。

 中央モニターの友軍判定の矢印がUターン。ガイジュウから離れる。友軍判定、アルバトロスへ切り替わる。

 アルバトロス、ドローンと歩兵の降下を開始。ドローンが先行し電波障害範囲へ向かい、信号途絶。続けて歩兵部隊も。

 右モニターで部隊を上空から観測する。付近の小型を掃討しつつ移動し、ミサイルランチャーでビルの裏から大型へと攻撃。戦況全体がわからない為に車両護衛に専念し、小型は拡散気味になっている。

 大型は微動だにしない。

 第2が自衛隊へ空爆を提案するが都心のど真ん中なので無論、却下された。その他、車両部隊による攻撃にも微動だにしないので上官へ連絡後、第2は一時撤退した。

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