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「コーヒーです。どうぞ」

「ありがとう」

 オペレーターからマグカップを受け取って口に運んだ。

 指揮所内では各々が何かを飲んでいたり、モニターを眺めてたりして害獣の襲来に備えていた。薄暗く静かだ。一時間はこの状態が続いている。出来ればこのままであれば良いとふと思った。

 アラート。

 警報音が鳴り響いて座り直す椅子の軋みが聞こえ、中央モニターに視線を移した。

 地図上に大型害獣のマークが3つ。内陸部に二体、臨海地域に一体。かなり互いの距離は離れている。

「自衛隊から要請。指示は第3目標への対応です。爆撃機の上空待機は可能です」

 データリンクにより瞬時に戦略情報が更新されてマークの上に数字が割り振られた内陸部の個体にそれぞれ1、2。臨海地域に出現した個体には3。

 爆撃可能な地点、開けた無人の場所を探す。開発中の埋め立て地があったのでそこをマーク。爆撃予定地点とする。戦略支援AIの反応はポジティブ。

「車両部隊とアナイアレイター及びアーマーピアシングを出せ。歩兵部隊はシューティングスターに搭乗し上空待機」

 部隊が迅速に基地を出発して現地に向かうのをモニターで確認。

「全部隊異常なし」

 部隊との通信を終えたオペレーターが報告。  

「フルフォースは害獣を包囲して一撃離脱の波状攻撃を敢行、オンスロートは害獣を包囲して集中砲火、アーマーピアシングによる航空支援で害獣を爆撃地点に誘い込む」

 細かな指示をモニターへの入力と口頭で伝える。

「警察から通信。避難が完了していない地域があり、攻撃を控えてほしいとの要請です」

 部隊の状況を左モニターで確認していたが中断。通信オペレーターの声を聞きながら中央モニターに警察の避難状況を出す。しかし、シェルターは避難完了となっている。

「避難状況はどうなっている」

「現在、警官の誘導により避難を実行中です」

 データリンク上で反映できない民間人を示すマークを置く。

 戦略支援AIが現状の作戦にネガティブ。

「アーマーピアシングに害獣を牽制、避難まで時間を稼ぎを」

「了解」

 通信オペレーターがアーマーピアシングに無線を入れた。


「こちらアーマーピアシング。了解」

 コレクティブレバーを引き増速。

 パイロットは前方左へ視線を移動。ヘルメット内センサーが眼球の動きを捕捉。眼球の方向、虹彩の収縮、水晶体の厚みを計測。

 パイロット眼球測定情報を機体制御システム含むシステム郡へ伝達、パイロットが遠方を注視していると判断。データリンク上の座標及びレーダー、機首光学装置の情報を統合。光学装置カメラレンズ調整、パイロット視認物拡大。

 HMDに光学装置の映像を投影。

 足の長いワニ、もしくは恐竜に近いシルエットをして背中には巨大な板が生えた害獣の姿をパイロットが認識する。

 戦術支援システムに連動した映像解析によりパイロット注視物を害獣、敵と判定。

 判定を不明から敵へと変更要求。パイロット承認。

 FCS、敵、目標を自動捕捉。

 攻撃許可自体は下りているので各種スイッチを操作、民間人がいることによる武装制限により爆発物に制限がかかり、下部機関砲とレーザーのみを使用可能状態へ。

 HMD上の距離が機関砲射程内まで縮まる。

「ホールインワン、こちらアーマーピアシング。エンゲージ」

 パイロット、トリガーを引く。

 下部機関砲作動。害獣頭部へと数回点射。害獣がヘリの方を向いた。

 もう一度点射してからヘリは後退を開始、害獣は首を戻す。

 パイロット、コレクティブレバーをニュートラル。


 RDY-LASER


 そして少し角度をつけてウェポンリリースボタンを押し込む。

 レーザー照射。頭部へ命中。

「ホールインワン、こちらアーマーピアシング。害獣の注意を引けない」

「こちらホールインワン。一時退避してください」

「了解」


 中央モニターに映る点が移動して害獣から離れていく。視線をずらすと地上部隊はもうじき所定の配置に着くところであった。

 肝心の害獣は動かない。

「民間人の避難はまだできないのか?」

 警察とやり取りをするオペレーターの視線はノー。

「あと十分必要だそうです」

 十分もあれば攻撃態勢は整う。問題は害獣が動かない事だ。爆撃地点へ移動させたいところだが。

 明らかにこれまでの害獣と違う。3体同時という点を除いてもそう感じた。右モニターにアーマーピアシングの光学装置が映す映像を表示。動かないでじっとしていた害獣の背が開く。

「アーマーピアシングに攻撃させろ」

 このままこの行動を許すのはマズいと判断し指示を出す。

 右モニターに曳光弾が飛んで害獣に小規模な爆発が起きるのを見る。

「避難完了しました」

 オペレーターの報告を聞き次第、民間人を示すマーカーを消去。

「アーマーピアシングはミサイルを使用して害獣の行動を阻害。車両部隊は攻撃位置へ展開」

 モニターを操作して攻撃位置を調整、戦略支援AIがルートを選出してそれを承認。

 右モニターには対戦車ミサイル2発を撃ち込まれ、背中の構造物を損壊した害獣が映っていた。

「害獣は動いていない。爆撃をせずにこのまま集中的に攻撃を浴びせる」

 各車両部隊のマーカーが移動を開始した。


「こちらフルフォース1。了解」

 操縦手がHMDに表示される表示やモニターの地図を確認しつつ目標地点へと移動。ビルの裏から右折、海岸沿いの車道で操縦手がブレーキを踏み急停車。

 射手、スティックを操作して砲塔を旋回、モニター上に映る害獣をタップしてターゲットロック。

「25m射撃開始」

 車長の指示が下り、射手がトリガーを引いた。

 25mm徹甲榴弾発射。

 害獣の背部構造物へ着弾。損傷軽微。

「攻撃中止、移動開始」

 射手がトリガーから指を放す。

 操縦手、トランスミッションスイッチを後退へ。ハンドルを切りながら遮蔽物の裏まで下り表示された座標へと移動を開始。波状攻撃を仕掛けながら最終地点へと到着。

「25m射撃開始」

 小規模な爆発が連続で発生してから、害獣頭部に複数の爆発を伴わない命中弾、続けて背部構造物へ。オンスロートによる一斉射撃が開始されたのを確認した車長がミサイルの使用を指示。

 砲塔側面のミサイルランチャーから対戦車ミサイルが発射され、害獣頭部に命中。他の車輌及びアーマーピアシングからもミサイルが放たれる。

 害獣の活動停止と共に砲火が止まる。

「こちらホールインワン。戦闘終了。帰投して下さい」

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