終章 二人の行先
規格外の害獣が倒されてから数ヶ月。未だに完全な復興は出来ていない。
爪痕は今もあり、これからも被害者の心にそれは残り続けるだろう。
あの日、俺は奏を守ろうとして戦ったというよりも走って、最後はいつの間にか戦いが終わっていた。赤い粒子が何をしたのかはわからないが彼女が何かをしたのだろう。おぼろげな記憶では大きな物が戦闘が起きていた場所に、強い力、圧力? とにかく何かをした。
数日経ってあそこで起きた戦いの詳細を知った。その中である時に突然害獣の発していた電波妨害が消えたとあった、多分、赤い粒子がやったのはこれだろう。
そして、大勢の人がなくなった。
だから、ここにいる。
手に持っていた花を献花台に置いて黙祷し、下がる。すぐに次の人が花を置いた。
自分は助かった。でも、それは偶然自分のいた場所がシェルターに近かったとか運が良かっただけで。何より、害獣と戦っていた人達がいる。大勢の為に命をかけた人達がいる事、いた事に感謝したかった。
ただのエゴかもしれないけどせめてもの思いだった。
「タケル」
聞き慣れた声に振り向く。
「奏」
地味な服装の奏が俺の顔を見て少し複雑な表情となった。あの日以来、少しだけ互いに遠慮している感じがある。
「一緒? もう?」
献花台の方を見てから、奏が随分と端折った言葉を発した。
「おう。ここじゃみんなの邪魔だから歩こう」
「ん、そうだね」
小さく頷いた奏と献花台から離れていく。
「大丈夫か?」
「ん? うん、大丈夫。えっと、改めてあの時はありがとう。タケルがいなかったらシェルター行けたかも怪しい」
「そんな事ないだろ。それに、俺よりも、戦った兵士に感謝しないとな」
本国へ移送される戦死者という報道や、犠牲者の捜索という報道を思い出す。
「うん」
暗く重い雰囲気が漂う。
「あのさ、タケル。タケルはあの時どうして」
空気を先に破ったのは奏で、これまで何度か聞かれた事を再度聞かれた。
赤い粒子の事は彼女に話していない。まず、どう切り出せばいいかすら分からない。
「あれは」
そこまで言って言いよどむ。
「いいよ、言わなくて。話したくないなら」
「ごめん、いつか、話すよ」
「ん、わかった」
申し訳無さでいっぱいになっていると、視界に奏が映り込み、右手を包まれる感触。
「ねえ、タケルの事信じてるから。だから安心して」
柔らかで純粋な笑みを浮かべた奏が紡いだ言葉に、俺は救われた。どこかにあった後ろめたさや過去への暗い思いがスッと軽くなった。
彼女が俺を信じてくれるなら、俺もそれに応えないといけない。起きてしまった事、全ての過去は変えられないがそれを背負って前を向こう。
この笑顔を守りたい、この繋いだ手を離したくない。
「ありがとう」
世界には未来があって多くの大事な物がある。だから、前に進み、そしてそれを守っていく。
俺も前に進もう。隣にいてくれる彼女と一緒に。
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