episode8 TOOL3/3
適当に話ながら外に出て、その足で部隊の車両等が置かれた場所まで移動する。データリンク関連でソフトウェア等に少し手が加えられているので、問題はないだろうが見ておきたい。将軍とダニエルも主任に話があるらしく後ろについている。
途中で戦闘ヘリの前を通る。整備員が武装懸架翼に取り付けられたレーザーポッドに装置を繋ぎ、タブレットを見ていた。
「この数値は高くないか?」
「これは、基準値以内です」
整備員が考えてから、
「今までの数値との比較は?」
「ちょっと待って下さい。あっ、徐々に高くなってますね。バッテリー異常?」
「それだともっと変化が大きい。それにレーザーポッド自体は正常に作動している」
「なら、ガスの混合ですかね。レーザー発射は出来ますから」
「ありえるな」
「ですが定期整備済みですし、数値も小さい変化なのでセンサー関連の異常が妥当ですね。目視ではセンサー付近に損傷はありませんが」
「衝撃で不調なのかもしれん。よし、カバーを外して調べよう」
「はい」
整備員が近くに用意していた工具箱から色々と取りだし始めた。
「大尉?」
声がして意識をヘリから将軍に移す。
「手こずってるらしかったからな」
「原因がわかればすぐですよ。最悪、レーザーポッドならガンポッドに変えてやれば良いですし」
「とりあえず、出撃して戦える様にしてもらえれば十分だ」
整備員を横目に見つつ車両の方へと移動する。突発的に現れるガイジュウに対応する為、即応性を意識してゲート近くに対ガイジュウ部隊は待機しているので基地と一般住宅地の境界線にほど近い。周りが静かであれば住宅地の喧騒も聞こえて来るだろう。もちろん抗議の声も。カアカアガヤガヤと耳が痛くなる。
基地境界線に沿って植えられた目隠しの木々とコンクリートの建造物に、少し圧迫感を感じながら夏の暑く硬いアスファルトを踏んでいく。冷たく開放的な故郷とは真逆だ。ガイジュウのせいでなかなかあの雪に覆われた大地を踏めないのは腹立たしい。
望郷の思いは募るばかりだ。
理由もなく襲ってきた小さな感傷に浸りながら、ヘリポートを過ぎてガレージまで来る。外には複数の車両が並んでいる。
さて、主任はどこかな?
整備は終了しているらしく何か作業をしている様子ではない。
「6.8mmはいるのでしょうかね。報告を見る限り、あんまり効果的という感じは無いですけど」
歩兵戦闘車の側で二人の整備員が話しているのを見つける。タブレットを持っているので少し点検している様子か。
「いるさ、近距離であの小さい方のガイジュウに25mmは無駄弾だ。それに武器は多いに越した事はない」
「そうなのですが、でも、何かもっとより効果的な、何でしょう? つまり、より良い物を装備出来ればいいのにって思うのですよ」
「それは言えてるな。だが、無いんだから仕方がない。効果的な12.7mmでもつけられたらやっているんだが」
年配の整備員が若い整備員の肩を叩き、
「なに、お前のそういう少しでも良くしようという考え方はいい事だ。お前は勤勉で良いやつだ。常に仲間の為にあれ」
「はい。肝に命じます」
タブレットを操作する二人に主任がどこにいるか聞こうとした時、
「大尉。データリンクの件ですか?」
ちょうどよく探していた人物が車両の陰から現れた。
「ああ、そうだ」
「ご心配には及びませんよ。テストの結果通り、問題ありません」
「そうか」
ここに来た理由が数秒で無くなってお互いに沈黙する。先に沈黙を破ったのは主任だった。
「あー、マスメディアから逃げて来たのですか?」
肩をすくめて見せる。
「ヒーローインタビューは終わったのでしょう? なら」
「そういうのじゃない。離れた場所に行きたかっただけだ」
「他の予定は?」
「デスクワークは片付けてる」
元々量も多くなかったので片付けてしまったが、今思えば少し残して、インタビューをさっさと切り上げさせる理由にすれば良かった。
「では、整備済みのピカピカの車両でも見てって下さい。自分は備品管理で相談に行ってきます」
「そうか。それじゃあ、ゆっくりさせてもらうよ」
主任が去ろうとすると、後ろの二人が引き止めて歩兵戦闘車の内装について色々と言っている。長くなりそうなので一人でその辺をふらつく。
整備済みの歩兵戦闘車が並び、25mm機関砲が砲塔から伸びて暑い陽射しに照らされテカテカと煌めいている。
その奥には火力支援用に改造された装輪装甲車が見える。上部に載せられた120mm滑腔砲が車体に対して不釣り合いなくらい大きい。
「大尉、どうかされましたか?」
車両の後ろから現れた整備員から声をかけられる。
「ん? ああ、日本のメディアから逃げて来た」
冗談めかして言うと整備員が笑った。
「そういうのがお嫌いですね」
「報道官じゃないからな。それより、将軍さまやダニー達から車内の居心地が悪いと聞くが」
「そんなに深刻な話になっているのですか?」
「いや、そんな事はない。うるさいのはうるいからな」
「まあ、最新型じゃないですからパワードスーツ着用時には少々窮屈でしょうね」
整備員が歩兵戦闘車の後部ハッチを開け、車内を見せる。元々の座席に追加のフレーム等が取り付けられ、重装備状態のパワードスーツ着用者も搭乗可能、スーツのロックも出来るのでスーツのみを取り付けておく事も出来る。使い道はあまりないが、スーツを固定して余剰スペースに武器弾薬を積んで輸送車代わりにしていた者もいると聞く。
「後付設計だとどうしてもな」
ガイジュウ退治には高価な最新鋭装備はなかなか支給して貰えないのが現状だ。とは言っても最新鋭装備は電子装備関連の強化が多く、ガイジュウ相手ではあまり意味をなさないので少々お古でも問題は無い。だが、新しい規格で設計されているので搭乗者のパワードスーツ着用を想定していたりと、何かと便利な所はある。
「これでもかなり搭乗者の為に空間を空けているのですけど」
追加されたパワードスーツ用のフレーム類に触れながら整備員が語る。
「逆に言えばそのくらいしか不満点がないと考えるべきだろう」
「そうだと良いのですが」
低い入り口に頭を打たないように車内から整備員が出てきた。
「座席にクッションでも敷いておけば不満も消えるさ」
「シートが固いと誰かが言ってましたし、一考です」
ハッチを閉めて少し離れる。正面に回ってゴテゴテと光学照準器や通信装置、増加装甲が付けられた砲塔を見上げた。
大型にはイマイチ効果が薄いが、小型には絶大な威力を発揮する25mmが砲塔から一本伸び、横には6.8mmが小さく伸びていた。これを最初に配備された時は、なぜ35mmを搭載したもう少し新しいのにしなかったのか、こいつは陸軍博物館行きじゃないのか? と不満を漏らしていたのが懐かしい。
実際運用してみると大型には35mmの効果は薄く、小型の露払いには25mmくらいがちょうどよいとわかるのだった。
そのまま車列に沿って移動し、装輪装甲車まで歩いていく。見た目は大型の装甲車に戦車の砲塔を載せただけといった具合だ。ご多分に漏れず増加装甲を施されている。
「この装甲はガイジュウ相手にはどうなんだろうな」
装甲は銃弾や砲弾やらが飛んでくるのを想定しているが、ガイジュウはそういう物を飛ばして来るわけではないので、どういう防御が正解なのかは未だに模索中という段階でしかない。そもそも、ガイジュウによって棘みたいなのを飛ばして来るやつ、火みたいな何かを出すやつ、何も出さないで体当たりを敢行するやつ。一貫性がない。
だからとりあえず、機動力を損なわない範囲で装甲を追加している。幸い、基地から出て戦闘、そして帰投という流れで長い距離を移動したり長期間行動する訳ではないので、予備の燃料や食料等の様々な物資を積まなくても良いのが救いか。
「場合による。の一言ですね」
飛翔体を飛ばして来る奴にはあった方が良い、だが、体当たりする様な奴には機動力があった方がいい。簡単に装甲を着脱出来るモジュール式とはいえ、出撃前数分で、という訳にもいかないので相手に合わせては不可能。いつも増加装甲はつけっぱなしだ。
「そうなるか」
「あまり機動力を重視しても市街地では自由に走れ回れる訳でもないですし、今が正解ですよ」
「そうだな。今が最適で正解」
度々こういう事を考えて結局同じ結論に至る。それでも何度も何度も考える、生存できる最適解を。
誰も犠牲にならずに脅威を打ち払う方法を。
未だにそれは見つけられていない。
目の前に鎮座した装輪装甲車を見上げる。長方形の車体の上に、角張った砲塔が載せられてガイジュウに有効打を放てる120mm滑腔砲が伸びている。
上下が先に向かって傾斜し、横から見ると三角を描くフロント部に触れる。強靭な装甲板は焼ける程に熱く、体内の熱を放出する巨大な生き物の様に感じられた。クソッタレなガイジュウ共を粉砕する36tのモンスターだ。
各車両を見て回った後、来た方向へと向かっていく。
「では、自分はこれで」
「ああ、邪魔したな」
整備員と別れて来た道を一人で辿っていった。将軍とダニーは俺を置いて帰ったらしい。
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