episode8 TOOL2/3

 マップ上の点が移動していく。端末を叩いて停止。

「どうも腑に落ちん」

「ですが、我々が降下した際には。ドローン以外考えられませんよ」

 グレートウォリアーの隊員が困った様な表情をしながら言う。

「だがな。うーん、まあ、トッドも戦闘でドローンの座標送信等に不具合が生じて、指揮システムに反映されてなかった可能性。ってやつを話してはいたが」

「自衛隊もまだ到着していませんでしたし」

 隊員が付け加える。

 確かにそれしか考えられんが、包囲網の脆弱な場所がずっと健在だったのはな。確認した限りだと小型は脆弱な場所にも何体も流れていた。それ相応の戦力がなければ突破されていた。

 だが、されなかった。

「自分達も不可解には思いますが、ドローンの不具合以外ないかと? それよりも日本の記者はどうするのですか?」

 いまいち納得のいかない結論の話を面倒な予定の話へと切り替えられる。実際、今はこちらの問題の方が重要であった。

「広報の原稿を読むだけさ」

「それだけじゃ済みませんよ」

 隊員が頭を振って肩をすくめて見せた。

「わかってる。どうにかするさ。それより自分の事をだな」

 とにかくこれからも努力します。とかなんとか言えば良いだろう。実際に自分達は訓練を重ねて戦術を練っている。

 それでどうにかなる訳では無いが、時間切れを狙えばいいだけの話だ。

「自分は迅速で的確正確な行動で作戦を遂行するって言い続けるだけですから。大した事ないですよ。それより、第2の二の舞いはゴメンですよ」

 第2重目標多手段戦闘中隊の指揮官はしつこい記者に思わず適切ではない言葉を発してしまった。それを報道されてちょっと面倒な事になりかけた。

「大丈夫だ。もしもの時は黙るよ。黙認さ。沈黙で多くを語るよ」

「それが最善ですね」

「口は災いの元ってな。さあ、そろそろ日本のマスメディアにご挨拶だな」

 記者が部屋に入って、広報官が記者の視線の集まる壇上へと上がった。自分達は隅で控えている。

 そのまま前の戦闘についての話を始める。これまでの経験を踏まえた戦闘であり、対応した部隊は最善を尽くしたという趣旨の話をしていく。

 これからも日本の防衛の為に協力していくという話で締めくくり、質疑応答が始まる。

 一人の記者が手を上げ、広報官が彼を示す。立ち上がった記者はどこの局かを言ってから質疑に繋ぐ。

「今回の戦闘では被害は最小限に抑えられたと考えてもよろしいでしょうか?」

「はい」

「では、これまでの似たような状況での戦闘で、被害が大きくなってしまった時はもっと被害を抑えられたのではないでしょうか?」

 通訳無しで広報官が返答する。

 舐めてるのか? 簡単に被害を抑えられる訳が無いだろう。出来ればやっている。

「その戦闘によるデータがあって今日の最小限の被害に繋がっています。それはこれからも同じです。我々は戦術を研究し、よりよい結果の為に戦います」

「ありがとうございました」

 記者が着席する。

「今後の害獣対策の為に戦力強化の予定はありますか?」

 別の記者が質問を行う。

「現在、害獣への警戒強化の為に偵察ドローンの導入を進めています。また、必要な装備や人員は随時導入していきます」

 広報官が素早く質問に答え、他の記者の質問もテキバキと捌いていく。

「大尉、準備が整いました」

 若い男が自分を呼ぶ。

「わかった。すぐ行く」

 男に付いて部屋に入る。そこにはカメラがあり、記者がすでに椅子に座って待っていた。

「ジョシュ・カニンガム大尉ですね。よろしくお願いします」

「こちらこそ」

 向かいの空いた椅子に座る。

「では、よろしいですか?」

 うなずいて見せる。

「まず、今回の戦闘をどう見ますか?」

「現在評価中です」

「それでは、今回の戦闘では少ない被害で害獣を倒していました。これまでとは何か戦術面等で変化がありましたか?」

「これまでの経験からより迅速な展開を行いました」

「それはどのような?」

 会社の面接 ―受けたことはないが多分こんな感じ― かよ。始めに自分の名前と所属を言ってください。はい、私はジョシュ・カニンガムets…。

「航空機を使用した展開等、様々です」

 しょうもない質問が続く。

「害獣への対策はどうなっていますか?」

「ガイジュウに対する戦術は日々進歩しています。そして、兵士達もトレーニングを重ねています」

 被害があるのは戦っていた兵士が怠けていた訳ではない。全力を尽くしてもどうしようもない事は多い。特に戦闘では。

「今後は今回の様に被害を小さく出来るとお考えですか?」

 これでできると言って次の戦闘で叩かれるんだろ?

「それは状況次第です。場所や展開可能な部隊、様々な要因があります。それ次第です、簡単に被害を小さく出来るとは断言出来ません」

 もう少し記者の戯言に付き合わされるとようやくインタビュー紛いの、ボロをいつ出すかの心理戦が終了する。

「本日はありがとうございました」

「ありがとうございました」

 一礼してから席を立つ。

 部屋から出るとピーターがダニエルと話をしていた。

「そっちもか?」

「大尉、はい。完璧です」

 ピーターが頷いてダニエルが、

「いんや、こいつのは大幅カット必至だ」

 手をダメだと言う様にヒラヒラと振る。

「将軍、ついにやらかしたか?」

「何も可笑しな事はしてない。戦場の過酷さを伝えていただけ。ただそれだけです」

「怪しいな」

 ちらと見るとダニエルが肩をすくめて見せた。どうせオペラみたいに仰々しい芝居がかった言い方をしたのだろう。

「だいたいわかった。それはそれで良いんじゃないのか」

 下手な事を言わなければメディア向けの発言なんて何でもよい。

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