episode5 SINERGY2/2

 数日すると本当に第91偵察隊にガイジュウの偵察観測任務の為、新型偵察ドローンが配備された。

「ホールインワン、こちらテストチーム。タクティカルリンクは正常か?」

 インカム越しにトッドの声が聞こえる。モニターの表示を確認、異常なし。

「正常だ」

「了解、観測装置を切り替える」

 左モニターに偵察ドローンの情報を表示、中央モニターには広域マップと展開している部隊等の情報。

 右モニターに切り替わっていくドローンのカメラからの映像が流れる。

「ターゲットの準備を」

 PTTボタンを押さずにオペレーターに向かって言う。すると彼は小さく頷きながら返答した。

「こちらホールインワン。異常はなかった。地上部隊の目標補足支援のテストを始めてくれ」

「了解。地上観測、目標補足支援モードに切り替え中。完了」

「ターゲット出します」

 オペレーターがコンソールを操作。すぐにドローンが出現したターゲットを補足。

「こちらグレートウォリアー、ドローンから目標座標を受理、攻撃可能」

 遮蔽物で本来ターゲットを補足出来ない位置にいるグレートウォリアーがそう報告、中央モニターにもドローンと地上部隊のリンクが正常であると表示される。そのまま各ターゲットへ攻撃を割り振る。

「地上部隊、攻撃開始」

 地上部隊が仮想上でミサイルを発射。

 全ターゲットへ命中。

「テストチーム、こちらホールインワン。全ターゲットへ命中。ドローンの支援は完璧だ」

「了解。こちらの接続を切って自動でそちらの操作に切り替わるか試す」

「了解」

 数分後にドローンがこちらの戦略支援AIの管制下に置かれる。緊急時のドローン担当オペレーターがターゲットの補足や部隊への支援を行えるかを確認。

「シチュエーション終了。異常なし」

 こちらからの操作にも問題無し。

「接続を切れ」

「了解」

 こちらからの接続を切ると完全自立モードに切り替わる。直前の指示を続けるという設定にされているので上空を旋回しながら地上の観測を行っている。通信が行えない状況を想定しているので、観測データはドローンの記憶領域に蓄積されているはずだ。

 しばらくしてから仮想上で攻撃を受けている想定に切り替える。自動でドローンが敵飛翔体に対して電子妨害、それでも振り切れないとチャフフレアディスペンサーを使用。敵飛翔体を回避。

 次弾接近、回避。敵による捕捉を受け続ける為、空域を離脱。

 ギリギリまで粘って地上部隊を支援するプログラムなので、その通りに動いている。ガイジュウは対空能力が貧弱なので、そういうプログラムでも問題ない。

「テストチーム、こちらホールインワン。ドローンが空域を離脱」

「了解。テスト終了」

 各種リンクの設定や地上部隊の引き上げ等の事後処理を済ませてから指揮所から出ていく。だが、仕事はこれで終わりではない。事後処理の後は報告書等を作成したりとデスクワークをこなしていく。

 やるべき事を全て終わらせた頃には夕食の時間になっていた。

 凝り固まった体をほぐしながら食堂へと向かう。

「おい、飯だぞ、飯だ!」

 この時間になると妙にテンションが高くなるトッドがどこからともなく現れる。

「そうだな、飯だな、飯」

「今日は何を食べますかね? うーん、ポテトが食べたいね」

 自分の質問に自分で答えて一人漫才を始めるトッドをよそに、廊下を歩く。他にも多くの同じ服の人が同じ場所に向かって歩いていく。

「なんでそんなに腹が減ってるんだ?」

 一日中デスクワークの日もこんなノリだ。確かに食事は楽しみだが、ここまで来ると毎日好物が出ているのかというレベルだ。

「代謝が良いんだよ」

「そうかい。そりゃ良かった」

「どうした? 腹減って無いのか?」

「椅子に座っていたモニターとにらめっこじゃな」

 そういう事ばかりだと逆に食事が楽しみになるのか?

「文字と数字羅列ばかりだと、鮮やかな食事の色合いが素晴らしく見えるんだよ」

「恐ろしい話だな。プログラムを専攻してなくて良かったよ」

「あれはあれで楽しいんだよ。こっちが指示した命令、言ったことを忠実にやってくれるからな。調和だよ。命令と調和」

 プログラムのハーモニーね、独特の美学だ。自分にはよくわからん。

「それで、新型はどうなんだ?」

「優秀だぜ。リンクも自己判断も高速だ」

「それは感じたな」

 従来型だともう少しかかるところだ。

「開発段階で戦略AIなんかとの連携をスムーズに行えるように設計されてるからな。ソフトウェアが違うんだよ」

 ドローンのオツムが違うとは知っていたが、予想以上であった。

「確かに、後付よりずっと良かったな」

「拡張性やら最適化があるからな」

「なるほど」

 先程のテストに関して話ながら食堂に入る。すでに中はいっぱいだ。

「肉を入れてくれ」

 配給の担当にゴネるトッドを進ませながら料理を取って空いた席に座る。トッドのトレーには色とりどりの野菜が山のように載せられていた。

「今、必要なのはタンパク質と脂質だ。くっそ~う。何でだ?」

 ぶつぶつ言いながらトッドはトマトを次々と口に運ぶ。ひょっとしてこいつは肉よりもトマトが好きなんじゃないのか?

 相変わらずよくわからない友人を尻目に、ベーコンとバターを塗ったレーズンパンを齧っていく。

「おい、俺のトマトやるから日本のスキンヘッドの司祭みたいに、ネンブツ言うのはやめてくれ」

「ネンブツはトナエルって言うんだよ。確か、祈るって事だ」

 自分の間違いを訂正しながらトッドが目の前のトレーからきれいにトマトを消し去った。

「ふーん、そうかい」

 半分くらいは聞き流しながら鶏肉を口に放り込む。日本の深い文化はよくわからん。熱心な信者という訳でも無いので、アメリカ人だがカトリックの事も十分には知らない。なのに異国の宗教なんてなおさらだ。それに日本は宗教に対してそこまでデリケートな国では無いので、注意を払う必要性も他国に比べれば大きくない。

 最悪、言語とある程度の予備知識があれば、あとはまあ馴れる。

「あっ、肉だ」

 野菜の下に隠されていたビーフを嬉しそうにトッドが頬張る。

「そんな事でよく一喜一憂出来るな。毎日楽しそうで何よりだよ」

 思わず少し笑いながら話す。

「人生一回きりだ。楽しまないとな。こういう事でも」

 トッドが真面目な顔でそれらしい事を言い始める。ふざけているのか大真面目なのか、相変わらずよくわからない奴だ。

「そうだな。お前の言うとおりだ」

 少しニヤリとしたトッドが肩をすくめて見せた。

「ところで、他のはどうしたんだ? いつも一緒だろ?」

 部隊の面々の事か。

「どこかにいると思うが、まとまらずにバラバラで座っているのかもな。急にどうしたんだ?」

「いや、直にドローンに対する意見を聞いておこうと。思ってな」

 周囲をキョロキョロ見回す。自分も見てみるが部隊の面々は見当たらない。

「それなら、報告書で十分じゃないのか?」

「十分だが、一応な」

「まめだな」

「ドローンの調整が悪くて困るのはそっちだろ?」

「お前の腕を信じてる。なに、何かあったら言ってくれれば良い」

「ありがたいね。まあ、必要になったら呼ぶよ」

「そうしてくれ」

 その後というもの、真面目な話はもう止めにしようと思ったのか、ドローンのテスト中に鳥の群れを見ただのどうだの。トッドのしょうもない話を聞きながら食事をした。

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