episode2 MEGADEATH 1/4
絶え間なく降り注ぎ地面を覆っていく降雪、雪を被った針葉樹林、白い息を吐くヘラジカ、7つの星、天頂の星。
澄んで冷たい、無音の大気の中で皮膚を微細な凍結した空気で削がれて、辺りに満ちた大気を吸うと肺が凍えて酸素と共に血液にのって冷たさが巡る。その時、自分が自然の中にいるのを感じて一体化した。
空気も雪も木もシカも全て単一だ。星さえも。
そう感じさせた。
「ジョシュ、おい、起きろ。おい」
肩から伝わる衝撃で目を覚ます。よほど叩いてくれたのだろう、右肩がジンジンと疼く。
目を開けば雪原に変わって黒いアスファルト、トウヒに変わって立ちそびえるビルディングがあり、ヘラジカは消えていた。きっとどこかの木の影に隠れたのだろう、その大きな角を見せながら。
「やっとか。遅かったな。何かあったのか?」
「道が混んでたんだよ。害獣のせいで一部の道が使えないからな」
数日前の事を思い出す。街のど真ん中に害獣が現れて昼間を更に炎で明るくしてどたまを学校に突っ込んだ、そのせいで多くの学生達が犠牲になった。害獣には自衛隊が対応し、自分の指揮する第3重目標多手段戦闘中隊は部隊の移動中で戦闘に関わった訳でもなんでもないが、異動先の基地で見た映像は凄惨で酷かった。とは言っても自分は軍人でそういう死体の山的状態を見慣れてしまう、 ―やっぱり見慣れはしてないし、慣れたいとも思わない― 人間として悲しいが慣れとはそういうもので、死体の前で何日も泣いている一般人の後ろで鉄面皮で突っ立ているのが自分だ。
そんな事もあってか故郷の事を夢に見た。もしかしたら、自分は深層心理であの安らかな生まれ故郷に帰りたいのかもしれない。
死体も瓦礫も見ない、血の匂いも何かが焼ける匂いも嗅がずにいられる場所に。
「今日は休みだ。クソッタレなモンスターの話はナシだ。聞きたくない」
ガイジュウ、最近名前を聞きすぎてうんざりしていた頃だ。あいつらは現れるたびに不幸しか起きない、名前も言わない方が縁起がいいってものだ。あいつらのせいで何人死んだ? 核の死者数より上だ。おまけに核なんかよりよっぽど厄介で不明な存在だ。
あいつらは核を超えた、理想的な核、真のメガデスをもたらす存在。なのかもしれない。まあ、そんな事になる前に奴らの息の根を止めるのが自分達の存在意義で、その意義を果たすのだが。
ドライバーシートに腰掛けてハンドルを握ったままのトッドが片眉を上げて口元を歪め、抗議の意をそれとなく示してくる。はたからみたら変顔してるだけだが。
「どうして遅れたか聞かれたんで、正直に答えたらこれかよ。文句はあのクソどもに言ってくれ」
「いつも無線で言ってるよ。悪かったよ。寝起きで機嫌が悪かったんだ」
もちろん実際はそんな事はして無いし出来ないのだが、やれるもんならやってる。
「今度機会があったら俺も無線借りるよ。言いたいことがいっぱいある」
みんな一緒だった、 ―昔に比べればそれなりに― 平和な世界に空間歪めて土足で踏み込んで荒らして回るだけのガイジュウに対する怒りを抱えていた。
声明も忠告も何も無しでいきなり現れ始まる虐殺、誰にも理解不能なイデオロギーの元行われる新しいテロリズム、単純な破壊行為。
そういう存在。
ため息をつく。ビルのミラーガラスに映った雲が縦に動いて地面に消えていくのが見えた。
「休暇なのに、休暇じゃないね」
思いつくのはガイジュウ、ガイジュウ、ガイジュウ。奴らのインパクトは相当だ。
「は?」
パーキングエリア前でハンドルを切ったトッドが一瞬、こちらを見た。
「ガイジュウの事を思い出す」
「恋だよ」
車を完全停止させてから、肩を軽く上げてトッドがほぼ真顔でジョークを言った。
「黙れ」
シートベルトを外して車外へと出る。湿度の高い不快な暖気に早速嫌気がさした。
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