prologue HELL-BORN2/2

 シューティングスターカーゴ内ロードマスター、両手の指を全て立てて体の前に付き出す。そして胸の前で拳を合わせて警戒を示すハンドシグナル、


「十分前」


 そしてまた両手を付き出す。


「十分前」


 カーゴ内の兵士達が少しだけ身動ぎする。

 ロードマスター、下げていた両手を上げる。


「総員立て」


 兵士が立ち上がり、折りたたみ式の座席を畳んで機内スペースを確保する。


「バイザーシステム確認」


 右人差し指でこめかみ辺りを示してから、顔の前で手を上下させる。

 それを合図に兵士達がヘルメットのスイッチを操作し、システムを待機状態から戦闘状態へ切り替え、表示に異常が無いか、頭を振って各種表示が追随するか等を確認。


「装備確認」


 兵士各自が装備同士が干渉しないか等を確認。

 ロードマスターが太腿部のポーチに仕舞っていたタブレットを取り上げ、部隊状況を表示。


[TACTICAL LINK-GREEN]

[SUITS-AIR BORNE―GRAND EFFECT MODE]

[AIR BRAKE UNIT-GREEN]

[WEAPON SYSTEM-GREEN]

[VITAL MONITOR-GREEN]


 タブレットをポーチにしまう。


「降下待機」


 ジャンプマスターを兼任するロードマスターが後部ハッチ開放レバーを引く。ブザー音が狭い機内に響いてハッチが開く。


「降下一分前」


 ロードマスターが人差し指を立てる。 

 先頭の兵士が開いたハッチのギリギリ、あと一歩で空中という手前まで進み、機首方向に体正面を向けて待機する。


「降下三十秒前」


 地表スレスレを飛行するシューティングスター。開いたハッチからは高速で流れる瓦礫が見える。


「降下十秒前」


 警告ランプがイエローからグリーンに。

 ロードマスターのHMDに統合戦術支援システムが降下合図を出す。それを確認し、


「降下開始」


 その声と共にロードマスターが先頭の兵士にハンドシグナルで合図を出す。

 少し左を向いていた首を正面に戻してから兵士が膝を少し曲げ、思い切り伸ばして後方へ跳び、機外へ身を投げ出す。慣性により飛び降りたティルトローター機と同じ速度ベクトルで進む。空気抵抗により兵士が減速しティルトローター機から離れる。

 バックパック上部に付けられた減速装置が自動作動、ドラッグシュートを展開。

 LANDING-AIR BRAKE UNIT―PURGE

 着地と共に減速装置が外れて後方へと流される。

 地面に足をつけた兵士が減速しきれなかった分を走って吸収していく。コンバットスーツのフレームが着地時の荷重を分散、疑似筋肉動力装置が着陸及び減速歩行の衝撃を吸収。

 隊長が部隊全体の状況を表示して、全員が着地に成功している事を確認。


「ホールインワン、こちらグレートウォリアー。タッチダウン。第2包囲網を形成する」

「こちらホールインワン。了解。スコーピオンは展開率70%。そちらの部隊の展開範囲に敵は確認されていない」

「了解」


 統合戦術支援システムにより各分隊ごとにルートが割り振られる。


「グレートウォリアー、こちらホールインワン。移動を開始しろ」


 返答が無線に流れ、パワードスーツに身を包んだ兵士達が3つの分隊に別れて展開を開始した。

 シューティングスター降下ポイント到達十分前、ADFSD スコーピオン小隊を積載した無人輸送部隊クラウド2機編隊。

 CLOUD-CRUISE

 投下ポイント到達まで5分。

 CLOUD-DROP SEQUENCE

 SCORPION-DROP SEQUENCE

 フラップ展開、揚力及び抗力増大。エンジン回転数上昇、出力増加。クラウド、減速開始。

 CLOUD-TAS 320km/h

 降下一分前

SCORPION-SYSTEM ALL GREEN

 降下5秒前…。

 3秒……。

 CLOUD-DROP OUT

 SCORPION-ENTRY

 クラウド、投下用プラットホームとの有線接続解除。スコーピオン、クラウド間通信が自動で有線から無線に切り替わる。

 プラットホーム懸架固定解除。

 空中投下型火力支援無人機部隊スコーピオン、投下。

 クラウド、ラダベーターを外側に開く。ブースターポンプでタンクより燃料を圧送し燃料流量増加、ノズルより高圧噴射、スワラにより圧縮空気と混合。エンジン回転数、出力増加。

 速度上昇、高度上昇、離脱を開始。

 SCORPION-ALTITUDE 300M―DRAG CHUTE EXTRACTION

 投下用プラットホーム、急激に減速。降下率が低下。

 ある程度降下するとドラッグシュートを切り離す。

 SCORPION-ALTITUDE 5M―SOLID ROCKET BOOSTER IGNITION

 減速用ロケットが推進ベクトルを奪い、投下用プラットホーム着地。

 SCORPION-LANDING

 投下用プラットホームとドローンの固定が解除される。装輪装甲車型2両と四足歩行型4機で構成された部隊が二部隊投下され、車両型一に四足歩行型二の分隊に別れる。各自のデータリンクを最適化させた後に、事前の作戦通りに怪物を中心として大きな包囲網を形成していく。

 スコーピオンチーム展開率70%に到達。

 グレートウォリアー1-1、目標地点に到達。12時方向には戦闘中のスコーピオン3。小型目標に対して機銃及びグレネードランチャーで攻撃を加えている。

 その後方からグレートウォリアー1-1が攻撃を開始。スコーピオン3の脇に回り込もうとする小型目標に対して6.8mm弾を撃ち込んでいく。

 グレートウォリアー及びスコーピオンが小型目標を殲滅、包囲網を狭める。

 スコーピオン随伴グレートウォリアー各分隊、各目標地点で攻撃準備後待機。


「グレートウォリアー、こちらホールインワン。大型目標に対する攻撃を開始しろ」

「こちらグレートウォリアー1-1。了解」

「こちらグレートウォリアー1-2。了解」

「こちらグレートウォリアー1-3。了解」


 各分隊特技兵がデータリンクが有効であるのを確認後、トップアタックモードに切り替えて携帯式ミサイルランチャーを構える。

 各分隊、一斉にミサイルを発射。発射筒より圧縮ガスでミサイルを投射、ブースター点火。

 打ち出されたミサイルは上空へとポップアップ。

 アーマーピアシングのレーダー情報を受け取って各ミサイルが目標の頭上から降下。

 ミサイルシーカー、目標を補足。終末誘導開始。ミサイル全弾命中。

 怪物の動きが止まる。

 アーマーピアシングパイロット、ウェポンリリースボタンを押し込み、対戦車ミサイル発射。

 目標頭部へ命中。目標頭部外骨格破壊。内部組織露出。

 続けて下部機銃による攻撃を行う。

 グレートウォリアーによるミサイル第二波飛来、全弾命中。

 怪物が右肩部外骨格を展開、パイロットがそちらを見る。毛様体筋弛緩、水晶体の厚さを変化。光子、水晶体により屈折、網膜に衝突。網膜内神経群の情報を脳へと伝達。情報を処理。

 パイロット、攻撃準備動作と推測。

 怪物が投射物射出。

 パイロットが回避を選択。運動野より信号発信、各部へ伝達。

 シナプス後膜受容体、アセチルコリン結合。

 SODIUM CHANNEL-OPEN

 ナトリウムチャネルより細胞内にナトリウムイオン流入。−70mVより活動電位へと上昇。

 軸索内信号伝導を開始。軸索終末よりシナプス小胞放出。

 筋肉組織が信号を受容。筋小胞体よりカルシウムイオン放出。

 トロポニン、カルシウムイオンと結合、トロポミオシン形状変化。アクチンフィラメント露出。

 ミオシンヘッド、露出したアクチンフィラメントと結合。ATPを分解、エネルギー抽出。ADP及びリン酸放出。

 ミオシンヘッド、形状変化。アクチンを滑走。筋肉群収縮。

 パイロット右腕、サイクリックスティックを傾倒。フライトコンピューター、操作情報を処理。ブレードピッチ変化。

 機体が右へと移動し投射物を回避。パイロット眼球筋肉群、収縮及び弛緩し視覚中央に怪物を捕捉し続ける。

 アーマーピアシング、機首を怪物に向け直して残りの対戦車ミサイルを頭部に撃ち込む。

 目標活動を停止。


「ホールインワン、こちらアーマーピアシング。目標をキル」

「こちらホールインワン。作戦終了。帰投しろ」

「了解」

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