第34話

(出たな)


 俺は気取られぬよう、息を吐いた。

 当然、この質問は予想済だ。というより出ないほうがおかしいとすら思っていた。

 君が好きだから、なんてありきたりな理由は通用しない。だって俺は、そういった素振りも彼女に見せてこなかったのだから。そういうところの綻びはいずれ突っ込まれて、破綻を迎える。


「きみと居たいから」


 それだけ、と付け加える。

 目的はあるけれど、。だから綻びはない。この問題について、俺は嘘をつけない。

 日鞠さんは黙った。あまりにも余白を感じさせないからか、はたまたストレートすぎることを疑ったのか。どっちもいやだな、と液晶画面に刻まれる時間を見つめる。


『それだけ、ですか?』


 平坦な声に、心臓が握りつぶされたように痛む。きみと居たい。その感情は本物だ。好意的なものまでも、疑うのか、きみは。

 黒い靄のようなものが、一瞬にして心を包む。


『……へんなヒト』


 電話口で、笑う声がした。

 柔い葉と葉が重なったときのような小さな、小さな声で、彼女はそう言った笑った。五文字の言葉には飴玉のように甘い響きがあった。


「笑わせるようなこと言ったつもりはないんですケドね」


 拗ねたように返せば、楽しげな声がする。

 もう少しこの声を聞いていたいけれど、俺も俺でボロが出そうなので畳みかけることにする。


「それで、どうする?」


 傲慢だと思うが、答えはなんとなくわかっている。


『はい。よろしくお願いします』


 日鞠さんの顔は見えない。

 だけど、口元は笑っているような気がした。……彼女を騙している俺の都合のいい、思い込みなのかもしれないけど。


 こうして一般的な恋愛感情を抱かぬまま、俺は日鞠 白夜と恋人関係を結んだ。



 



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