第18話
*
ひとつ、片が付いた。
月明かりにナイフを照らすと、鮮血が頬へ滴り落ちた。乱暴な殺人が、こんなに疲れるものだなんて――あと、これを何度繰り返せば会えるのだろう。疲労感に襲われながら、僕は死体を見下ろした。物体そのものに興味はない。行為に意味があるのだから。
殺人の原動力は、ただひとつ。折り畳みナイフに付着した血液を、着物の袖で拭う。熱をはらんだ吐息が唇から漏れる。
エンドロールまで秒読み。その舞台に役者がそろうまで、殺し続けよう。
*
『本日未明、女性の遺体が発見されました』
そのニュースが聞こえてきた瞬間、母がテレビを消した。俺は非難するようにリモコンの持ち主を見やる。気づいているのかいないのか、彼女は皿を片しにキッチンへと向かう。俺は再度、リモコンのボタンを押した。咎める声が聞こえたが、無視をすることにする。
『――日の午後二十一時ごろ匿名で通報があり、警察官が現場に駆け付けると女子高校生が倒れているのを発見しました。その場で死亡が確認され、死因は刺されたことによる出血死――』
女子高生。
その単語に、心臓が跳ね上がる。なにひとつ根拠はない――ないのだが、どうしてか日鞠さんの顔が浮かんだ。俺は食い入るように画面を見つめる。
『被害者は
成宮。不謹慎ながら、知らない名前であったことに俺は安堵していた。
ひとつ、ひっかかることがあるとすればこれまでの通り魔事件の手口とは大きく異なっている箇所だ。
(十夜が気づいた、のか?)
同じ家に住む人間同士、感じるものはあったのかもしれない。仮にそうだとして、真っ先に日鞠を襲わないのはなぜだ? 自分が犯人だとバレるからか? そんなもの今更な気はするが。
仮に日鞠さんが十夜を
とりあえず知らせなければと焦燥感に背中を押される形で、俺は自室に駆け込んだ。さっさと制服に着替える。姿見で見た自分の顔はひどい有り様だった。髪の毛はボサボサ、顔色は悪いし、目の下にはクマができている。俺はブラシで入念に髪を整え、ファンデーションやコンシーラーを使って化ける。鏡の中には百点満点中八十点の俺が、神妙な顔をして佇んでいた。
「よし」
一人気合を入れると、玄関でローファーを履く。日鞠さんに待ち合わせをしようと電話を入れると俺は家を出、待ち合わせ場所へ歩き出す。
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