第12話

 図書館を出た俺達は、一時間と少しをかけて犯行現場を回った。

 すべてを見終え、昼休憩がてら公園へ立ち寄った。休日にもかかわらず、人っ子一人いない。通り魔事件の余波がこんなところにも表れているとは。道中で買ったパンの袋を開けつつ、俺は図書館でコピーしたこの町の地図に印をつける。

 犯行現場をめぐって、わかったことがある。


(確実にだ)


 無人とまではいかないが、昼間でも薄暗く、人通りが少ない場所を選んでいる。その辺りは土地勘がないとわからないだろう。これは十夜には当てはまらない。犯行が行われ始めたのは三月、日鞠さんのが引っ越してきたのは二月。たった一か月で犯行場所に目星をつけられるとは考えにくい。

 とりあえず情報を共有したい。考えた結果、地図をいじることにした。

 完成した地図を膝の上に置き、恵方巻のごとく黙々とパンを食べ進める日鞠さんに声をかけた。


「日鞠さん。説明したいから指、貸して」

「はい」

「まず、俺達の学校がこの凹んでいるやつ。わかりやすいから、ここを起点に考えよう。この近くにある道路が五件目と六件目の犯行現場で、凸になってて――」


 一件目から八件目の現場の状況を説明しつつ、彼女の指を地図に滑らせる。犯行現場を凸にして工夫したのだが、伝わるだろうか。


「冬夏くん」


 指先で地図をなぞりながら、日鞠さんは言った。


「感動しました」

「それはなにより」


 日鞠さんは地図全体を何度も触っては、考え込んでいるようだった。なにか掴んだのか。問いかけようとしたタイミングで彼女はポシェットの中から端末を取り出した。


「……珍しいね」思わず、声に出ていた。「どうしたの」

「父に連絡を取ろうかと」


 言うが早いか、日鞠さんは電話をかけ始めた。

 あまりの挙動の速さに絶句する俺をよそに、淡々と会話を進めている。一分もたたずして通話は終わったようだった。


「今からでいいそうです」

「……それ、相手の都合は考えている?」

「お昼ご飯の休憩に一時間離れられるみたいですが」


 どうしますか、とこちらを見上げてくる。

 あまりの急展開に目を白黒させながら、俺はとりあえず頷いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る