第10話

『手口:両足を切りつけ、腰、首を刺す。


 一件目……三月四日(土)通報時間:二十二時、死亡推定時刻二十一時半頃。現場:商店街手前の住宅街。被害者:女性(二十代)死亡。


 二件目……三月二十五日(日)通報時間:二十二時台。現場:住宅街の中。被害者:女性(七十代)意識不明。


 三件目……四月十五日(土)通報時間:零時台、死亡時刻:二十二時。現場:繁華街の裏路地。被害者:男性(二十代)死亡。


 四件目……四月二十一日(金)通報時間:二十三時台、犯行時刻(被害者申告)二十二時五十六分。現場:商店街付近の裏路地。被害者:男性(十代)生存(意識不明)。

 ※搬送時意識有、被害者は反撃している。


 五件目……四月二十三日(土)通報時間:零時ちょうど。死亡推定時刻:未発表。現場:河川敷。被害者:女性(三十代)死亡。


 六件目……五月十二日(金)通報時間:二十二時台。現場:学校の近く。被害者:男性(五十代)死亡。


 七件目……日時・通報時刻・現場、六件目と同じ(ただし現場は数メートルほど離れていた)。被害者:男性(十代)生存(意識不明)。

 ※この件は首を切られていない。


 八件目……五月二十日(土)通報時間:二十三時台。現場:踏切。被害者:女性(未発表)死亡』


 最後の新聞を閉じ、今朝の情報を書き込む。こうしてみると圧倒的に死亡者数が多い。生きていたとしても意識不明の重体だ。俺は苦々しく思いながら、結果が書かれたノートを眺める。

 兄さんが刺されたときに警察から聞いた断片的な情報から察するに、犯人は――だ。四件目の事件、被害者の男性が「抵抗するのにナイフで相手を傷つけた」と通報時に話したとニュースで耳にした。残念ながら凶器本体は見つかっておらず、犯人特定まではいかなかったようだ。

 十夜と美術室の件で会ったとき、その腕に張り付けられていた絆創膏をこの目で見ている。形状も色も覚えているのだから間違いない。

 いったん思考を止め、俺は通り魔事件の手口を日鞠さんに報告した。


「お兄さんの件のときのみ、首を傷つけていません」

「やっぱりそこか」

「はい」


 彼女の返事に、俺は天を仰いだ。拍子抜けするぐらい、あっさりと『十夜が犯人である』という状況証拠ばかりが集まってくる。


「それに、今回の件は三年前の通り魔事件と類似している、という話がありますね」

「あー。……そんなこともあった気がする」

「三年前ですよ? 覚えていないものなんですか?」


 覚えている。けれど、自分には関係ないものだと創作物を見る気分で見ていたし、そもそも興味がなかったから。

 不意に、バイブレーションが鳴り響く。

 日鞠さんに断りを入れ、俺は端末の画面を確認した。思わず息を呑んだ。俺の変化を察知してか、日鞠がこちらへ近寄ってくるのを視界の端でとらえた。

 深呼吸ののち、SNSアプリを開いた。兄貴が巻き込まれて以来、事件の情報を集めるために開設したアカウントを作った。玉石混合、真偽不明。だが、藁にも縋る思いで作ったが存外、様々な情報が届いた。

 今回のメッセージも、そのアカウント宛てにきたものだった。はやる気持ちを抑え、アイコンを押す。そうして、表示された文章を目で右から左へと追っていく。


(これは――)


 日鞠さんに伝えるべきか? いや、話してリアクションを見よう。彼女に向き合い、俺は内容を告げた。

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