第4話
*
「兄さんは、星が好きだった」
病院の中庭へ歩を進めながら、俺は続ける。
「事件の日も『星を探しに行く』って出かけた」
あの日、ドアの前で行ってきます、と言った彼の表情はもう思い出せない。
泣いていたような、笑っていたような、はたまた無表情だったような。パーカーにジージャン、ズボンにスニーカー。いつもの兄貴っぽい服を着ていたのは、鮮明に覚えているのに。
「星を、探しに行く?」
彼女は人差し指を唇に当てた。
「本当に、そうおっしゃったんですか」
「うん。間違いない」
答えて、立ち止まる。日鞠さんはそれに気づかず、数歩先へと進む。心臓が強く脈打った。この人がなにかひらめいたのではないか、と。期待感と焦燥感を隠し、俺は言った。
「それがどうかした?」
「いえ」
日鞠は立ち止まった。
「たいしたことではないのですが」
「なにか思いついたの?」
「……ご自身で、思い出していただくのが早い」
日鞠の言葉に、俺は記憶を遡る。
病院から連絡をもらった夜。夕方から降り出していた雨は、天気予報の通り本降りになっていて、電話の音よりもそっちに起こされたんだっけ――
「あ、め?」
唇から音がこぼれる。
今の今まで、こんな単純なことに気が付かなかったんだろう?
「はい。雨の日に、星は見えません」
膝から崩れ落ちそうになった。
本当に――俺は兄さんのことをなにも
つまり『星を探しに行く』と嘘を吐いてまで、殺人鬼がいる街へくりだしたのだ。なんのために、なんて答えは――
「日鞠さん」
「はい」
「十夜って知ってる?」
我ながら馬鹿げた質問だと思う。
だけど、今の今まで日鞠さんの口からその存在が出ていなかったことが気にかかっていた。これだけ似ているのだ。赤の他人です、なんてことはない。それでも質問をしたのは、先の後悔があるからで。
「お兄さんにも同じことを訊かれました」
日鞠 白夜は少し迷うようにし、唇に振れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます