4.5話

 *

 僕は夜空を見上げた。白いインクを散らしたように星々が輝いている。キレイ、なんてつまらないこと思う。

 日課になっていた夜の散歩。しかし回数を重ねるごとに人がぽつんと暗がりにいると、あの日がフラッシュバックするようになった。明滅する視界の中、痛みに犯されるように懐に手が伸びてしまう。最初はお守りとして携帯したナイフが、いつからか人を殺す凶器になっていた。

 脈打つ熱が、意識を現実に引き戻させる。

 このままだと落ちた血液が、証拠になる。……それはまずい。僕は腕を伝う生ぬるい液体をなめる。鉄の味に生理的な嫌悪感を覚えつつ、無心で流れだす血液を一心不乱に飲んでいく。

 幸いにして出血自体はすぐに止まった。殺人の高揚感でハイになっているとはいえ、いよいよ鬼じみてきた奇行だ。袖で傷口を抑えればよかったじゃないかと後悔する。

 自分を傷つけた物品を回収しようと自前のナイフを使って、死体が握りしめているポケットナイフを取り出す。電灯に照らされるそれは、鈍色と赤色が混ざっていた。僕はそれをしまうと、犯行現場に背を向けた。

 ――はじめての戦利品がコレだなんて、ちょっと物騒だけど、と笑いながら。


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