第29話
*
私はティッシュで鼻をかみ、ベッド上で本日何度目かの寝返りを打った。
母は優しいから「どうして学校に行かなくなったの」とか「行きなさいとか」とか詰問をしてこない。聞いてほしいと思うけれど、私はその甘さを享受していた。
教室で冬夏くんにあんなことを言ってしまった手間、どんな顔をして学校に行けばいいのかわからない。会いたくないけれど、ここにいても何も変わらないのは重々承知していた。だけど、どうすればいいのか解決策が見つからず、悶々としている日々を過ごしていた。何日たったのかなんて全然わからない。
とりあえず、今はご飯を食べなければ。そう思い、サイドテーブルに片手をつき、軽く寄りかかって靴下を履いたときだった。そこにあるはずのボイスレコーダーが、ない。……学校に置いてきてしまったのだろうか。衝動的に飛び出したから、忘れ物をしていても不思議ではない。
気を取り直して、リビングへ向かう。と、来客を告げる軽やかなチャイムが鳴り響いた。宅配だろうか? 母からはなにも伝言を預かっていない。三回目で観念した私は、玄関へと向かった。念のため、ドアチェーンをつけてから、ドアを開ける。こちらからなにか言う前に、相手の声がした。
「おはよう。元気? 日鞠さん」
思わず、叫び声をあげそうになった。
冬夏くん。
驚きを含みながらも、優しく問いかけるその声にに息が詰まるのを感じた。今までと同じような接し方。
「な、なんで……! どうして、ここにいるんですか」
「それは」
彼は一拍間を開けた。息を吸ってゆっくりと吐く音がした。
「日鞠さんが、心配だったからだよ」
私は下唇を噛んだ。色んな物がこみあげてきて、その場にしゃがみこむ。
「どうして」
問いかける口の中に液体が流れてくる。
「私なんかに」
「きみが、納得するまで何度でも答えるよ。心配だったから」
「……馬鹿なんですか?」
「辛辣だなぁ。でも、そうかも」
私は顔を上げる。
たぶん、そこに彼の顔があると思ったから。
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