第26話
「星、見えないな」
「……好きなのか、星」
見た目に寄らないな、なんて付け加えると、彼は唇を尖らせる。
「失礼だな。これでも星には詳しいんだ」
「へぇ。今はなにが見えるんだ」
興味ない。だけど隣を歩く彼の声が弾んでいる気がして、つい話題を振ってしまった。
「今ぐらいか」顎に手を当てる。「今ぐらいだと、おおぐま座かな」
「は? くま?」
なんの冗談かと思い、アキナシの顔を見た。僕のリアクションは予想通りだったらしく、満足げに何度か頷いた。
「そう。あのガオーっていう、くま」
言いながら傘を持っていない手を肩ぐらいにあげ、第一関節と第二関節を曲げる奇妙なポーズをとった。
「おおぐま座には、神話があってね。こぐま座っていうのとセットなんだけど。
カリストという女性が大神ゼウスとの間に男の子を身ごもり、出産した。ただ、これをよしとしなかったのは、ゼウスの正妻のヘラ。彼女はカリストを大きなくまへと変えて、森の中に追いやったんだ。
月日が過ぎて、成長した息子のアルカスは森でおおぐまに会う。それがまさしくカリスト。自分の母親だとは知らずに弓矢で仕留めようとする。それを見たゼウスは慌てて二人を空にあげ、クマの姿に変えて星にしたんだ。これがおおぐま座とこぐま座の神話」
熱のこもった語りに、僕は「ふうん」としか返せなかった。
点と点を結んで、ひとつの物語を作る感性はよくわからない。ただ、隣で笑う彼が楽しそうなのが嬉しくて、同時に苦しいのは、はっきりと感じ取れた。
「おおぐま座のすごいところはね。北斗七星をもその一部だってこと。すごく大きいんだ」
北斗七星の名前は聞いた覚えがある。
「北極星のヤツか?」
「そう、それ!」
珍しく声のボリュームが上がった。当人にも自覚はあるらしく、咳ばらいで誤魔化した。
「北極星は真北にあって動かない星だから、夜に方角を知るのに役立ってたんだ。今もね」
そうか、と僕は思った。あれがそうだと断言できるわけではないが、とにかく見たことがある気がする。
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