美術室絵画汚損事件

第1話

 私は、目の前にいる人物が多重人格じゃないかと疑っている。……正確には解離性同一性障害だが。

 そんな冬夏くんは相当なイケメン

 すらりとした背丈、野暮ったい印象を受けない黒髪、センター分けの前髪、くっきりとした二重瞼に整えられた眉毛、薄い唇、ニキビとは無縁の綺麗な色白の肌、鼻筋が通っている。「校内にファンクラブが存在する」「モデルにスカウトされた経験が両手で数えられないぐらいある」、そんな噂もある。おまけに成績も学年上位、運動もできる。苦手なものは料理だ。

 目が見えない。私には視覚から入る情報がないから、その人の人となりを知るのに時間がかかる。めでたく高校に転校出来た私は、暇さえあれば隣の席冬夏 秋人の観察をしていた。

 クラスメイトの彼を冬夏くん(A)、主に体育の時間に会えるのが冬夏くん(B)とする。Bの彼は普段の彼よりも落ち着きがあって、口数も減る。だけど、授業が終わればまた元に戻る。この短時間での入れ替わりについて本人も、周囲もそのことに触れない。そんな冬夏くんの様子は以前、どこかで聞きかじったを彷彿とさせた。


 もちろん、ただの二面性の可能性だってある。だから、私は独自に彼について調べ始めた。


 ひとつめ、冬夏くんのことをクラスメイトに聞いて回った。顔や性格の情報はそこから得られた。中等部から一緒の兄弟がいるらしい。


 ふたつめ、体育の移動時間に「秋人くん」と呼び止めてみた。仮に人格がスイッチしているのであれば応じないだろう。そう仮説を立てた。結果、彼は顔だけをこちらに向けた。念の為に少し時間をおいて放課後に「秋人くん」と呼んだら、慌てたようで声が上ずっていた。あまりにもリアクションが違いすぎる。体育の時間前後に人格の入れ替わりが発生した。……と、結論を出したいが、体育のときは距離が近かったかもしれない。審議が必要だ。


 みっつめ、ある土曜日に助けられた。そのときの彼は後々思い返してみると、冬夏くん(B)な気がする。だけど冬夏くん(A)に、はっきりと「覚えていない」と口にした。人格間では情報は共有されないらしい。


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