16話(3)


「なるほど。内緒話には向いてそうですね」

「でしょ」


 翌日の放課後。

 話し合いのために俺は店の中でもひときわ奥、ソファーのボックス席を選んだ。

 俺は住み慣れた実家に帰ってきただけで、特に何も感じない。

 だけど日鞠さんは落ち着かないのか、やたら周りを気にしている。店内には買い物袋をひっさげた奥様方が多く、あちらこちらで笑い声や話し声がしている。

 キッチンの奥から母さんが出てくる。

 生ぬるい視線が注がれるが、俺は気づかないふりをした。こういうのが嫌だから本命がいても連れてこないんだよ、母さん。


「何飲む? 飲み物なら紅茶、コーヒー、フロートあるけど」

「フロートにします。イチゴ味のってありますか?」

「あるよ」

「ではそれで」

「じゃ俺はコーラかな」


 想像している関係じゃないから。そう母さんに目配せをして、俺は日鞠さんと向き合う。


「えーっと、何から考えればいいんだろう」

「まずはドッペルゲンガーの情報から整理しましょう」

「うん」


 俺はリュックからルーズリーフとシャーペンを取り出す。日鞠さんは鞄から何やら機械を引っ張り出した。


「その機械は?」

「ボイスレコーダーです、見たことありませんか」

「名前だけは知ってる。へぇ、こういうのなんだ」

「はい。授業を録音するのにもお得です」

「便利。俺も買おうかな」


 雑談をしていると、ちょうどいいタイミングで飲み物が来た。それぞれ来たものを飲む。


「とてもおいしいです!」


 驚いた様子で彼女はストローから口を離し、感想を述べる。


「ほどよく甘くて」

「よかった。伝えとくよ」


 ある程度、飲み終えたところで彼女が口を開く。


「では状況から」

「あの日、俺たちは偶然にも雑務を押し付けられた。それで十五時五十分に二重先輩Aが来た。先輩は会話を交わさず、日鞠さんから資料だけもらって会議室に入っていった。それを見て俺は二重先輩の名前の横にチェックを付けた。ここまでは大丈夫だよね?」


 俺の確認に、日鞠さんは小さく頷いた。彼女が後を引き継ぐ。


「十分後。資料が私と冬夏くんの分だけになった際、再び二重先輩が現れました。今度は話しかけてきてくださいました。が、先生の口からは『体調不良で資料だけもらって帰る、とメモで伝達してきた』との気になる発言がありました」

「うん」

「ドッペルゲンガーの話です。『ホテル街』『繁華街』『二重先輩に雰囲気、歩き方がそっくり』『話しかけたら逃げた』これらが特色ですね。そして出現時間は夜です」

「ホテル街かぁ。駅裏にあるね、たしかに」


 安価なラブホテルとかビジネスホテルが混在しているらしい。最近では援助交際の摘発があった、とニュースでやっていた。


「そして、なりすましの可能性のある人。二重先輩は『妹さん』、姿がそっくりな方については『双海先輩』『二木先輩』を挙げました」

「二重先輩の妹さんは先輩と同じような恰好や化粧をしている。先輩たちは日常的に間違われたり、わざと似た格好をしたりしてるって言ってたね」

「はい。おおむねそれで正解です」

「あと。生徒会長の件。先輩の話ではカップルに見えないし、それっぽいこともしてない。どっちかっていうと束縛気味。二重先輩の妹のほうとは仲がいい」


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