第17話


 なんとなく整理し終えた。

 候補の三人のなかであれば、妹の確率が高い。『二重先輩の真似をして、夜のホテル街や繁華街に行く』。ただし、そうなる動機が見えてこない。

 仮に先輩を模倣するにしても、わざわざそこに行く必要はない。あまり考えたくはないが、先輩が”そういうこと”をしていれば話は別になる。けど、それは先輩に扮している人物も身を危険にさらすことになる。


 そこまでして一体、犯人は何がしたいのだろう。そもそも、本当に彼女たちの中にドッペルゲンガーがいるのだろうか? 世界には自分と似た人物が三人いると聞くし、単なる見間違えの可能性もある。けど、それなら声をかけられたときに逃げた理由が説明つかない。いや、前提からしてすべて同一人物がやっていることなのだろうか?

 思考がぐるぐると同じようなところを回る。日鞠さんが、つ、と人差し指を立てた。


「動機という面から見てみましょうか」


 藁にもすがる思いで、俺は頷いた。


「双海先輩と二木先輩。日常的に二重先輩と間違われています。お二人のどちらかがドッペルゲンガーだとして夜の街を歩く理由。それは、自分たちの容姿を利用した嫌がらせになります。考えたくはないですが、あのお三方の仲が悪いというパターンですね。

 ただ、日頃から一緒に行動するのであれば、そのような回りくどい手を使う必要があるのかと疑問が浮かびます。あの定例会議の日にも、学校外でのドッペルゲンガー出没時間にもアリバイがありました。これらのことから可能性はゼロとは言い切れませんが、低いと思われます」

「二人とも見た目は似てるけど、雰囲気は全然違ったしね」


 二重先輩がギャル学部清楚学科だとしたら、あの二人はギャル学部ギャル学科だ。


「続いて妹さんです。彼女のことは仮にAさんとしましょう。Aさんは先輩の服やコスメを借りています。二人の先輩曰く、見た目は似ていないが二重先輩なりきっていたら分からない、との証言がありました」

「彼女が犯人じゃないの?」

「私の所感ですがAさんは、先輩のなりすましをしたいわけではありません。彼女のように綺麗になりたい、近づきたい。そのような感情がベースなのではないでしょうか。だから、服装や化粧を先輩と同じものにする行動に出たわけです。必然的に見た目は似てきますね。ただ、彼女が綺麗になりたいのには理由がありますが今は省きます」


 メモを書き終え、顔を上げる。


「あれ? ってなれば誰が二重先輩のなりすましを?」

「決まっています」


 日鞠さんは、フロートを最後まで飲み干した。


「先輩です」



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