16話(2)
*
「へえ」
俺の話に、吉永は肩を揺らして笑った。
帰りのホームルーム終了後、俺と吉永は教室に残っていた。吉永は友人を待っていた。「あと五分で着く」とメッセージが来たようなので、それならと俺はこのクラスメイトの暇つぶしに付き合っていた。本当は用事があるが、まあ別に。
話題は、ある女子生徒について。「なぜ」、つまり動機を追求する。そんな変わり者だ。
「で、その人。名前なんて言うの?」
吉永に訊かれて、気づく。失念していた。俺はごまかすように頭をかいて、結局、そのままを口にした。
「ド忘れした。なんだっけ」
「おいおい……」
「ごめん。でも意外だな、吉永が女子生徒に興味を持つなんて」
忌憚なく告げると、吉永の顔が歪んだ。
「誤解を招く言い方はよせよ、冬夏」
この友人は女子を苦手に思っているらしく、だいたいつるんでいるのは男だ。
「でもなんでまた、その人に?」
「個人的興味さ。語ってみたいんだよ、その子と」
「というと?」
「例えば、人一人が殺された事件があったとする。そんな犯人の過去や生い立ち、そして動機も、知ったところで何になる? 知って『あぁかわいそうに。じゃあしょうがないね』で殺人が許されていいわけじゃないだろう。犯人の人となりを第三者の僕たちが理解した気になって、怒ったり憐れんだりする。それで、なにがしたいのかって話にならない?」
学級委員を務める吉永の語り口は堂々としていた。アーモンド形の、眠たそうなたれ目が俺を見据える。確かに、吉永の言う通りではある。他人の情報を知って、なんの糧にするのだろう。
「例えば、裁判になったときに情状酌量に役に立つんじゃない?」
「それもそうだ」
一応、納得してくれたらしい。俺は興味本位で、吉永に訊いてみた。
「近頃の通り魔、何が気になる?」
「動機」
ずっこけそうになった。
「君さぁ」
「今回のこれについてだけだよ。通り魔って、なんでする奴がいるんだろうって」
なんで、か。犯人の口から訊いてみたいものだ。俺は少し考えてから首を横に振った。
「分からない」
「やっぱり君もか」
肩を落とした。
「夜道には気をつけろよ、冬夏」
「君もな、吉永」
そこで話は中断された。理由は明確、吉永の友人が迎えに来たからだった。声に軽く手を振って応じる。カバンをもって吉永は立ち上がった。いつのまにか五分経っていたらしい。
「あーあ。喉渇いた」
そうぼやく吉永に、俺はちょっと笑ってしまった。
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