第3話(2)
ポニーテール、ブランド物のカーディガン、着崩していない制服、三年生を表す赤いラインの上履き。
間違いない。二重先輩だった。……白いマスクもつけている。
「ふ、二重、せんぱい?」
どういうことなんだ。これでは数分前の再演ではないか。
顔の近くで手を仰ぎながら、先輩は歩いてくる。先生は驚いた顔をした。
「あ? 二重?」
「どうもー」
話しかけてきた先生に対し、ガラガラの声で二重先輩は軽くお辞儀をした。
「お前、俺宛てに体調不良だから資料だけもらって会議は休むってメモ寄こしただろ」
「え?」
きょとん。そういう表現がぴったりな顔で、先輩は止まった。フリーズしている。俺も別の意味でフリーズしている。ついさっきまで話していた、二重先輩のドッペルゲンガーの噂。それが現実になって、目の前で巻き起こっている。
「またまたぁ、先生ってば冗談がお上手なんですから」
「本当なんだが」後頭部をかく先生。「まあいい、今日の会議は出ず、休め」
「えー、私、司会では?」
「風邪菌ばらまくつもりかお前は」
「カラオケで喉やっただけなんですけどもー」
言った直後に咳。皆にうつったら大変だから、風邪をひいたら学校を休む。このことは二重先輩も理解しているはずだ。彼女が言うことが本当だと思うが、先生は信じない。帰れの一点張りだ。
数分の押し問答の末、根負けしたのは先輩だった。すでに会議は始まっている。マスクを軽く上にあげた時「あ」と言って、俺のほうを見た。
「冬夏君、資料貰える? それだけだったら別にいいよね?」
どうしようか悩んだ。
ここにある資料は二部、つまり、俺と彼女の分だ。そして一番目に来た先輩(仮)が資料は貰っていっているはず。
「いいですよ」
隣から声がした。日鞠さんだ。資料を持っている。
「ありがとー、家帰って読むね! じゃねー」
二重先輩は礼とともに受け取り、何回か手を振って去っていった。嵐のように来て、嵐のように退場した。何だったんだ一体。
いや、それよりも。
「日鞠さん、資料はいいの?」
「おかしいですね、今の」
切り替えが早すぎる。もう頭の中では、ドッペルゲンガー噂話と今の出来事が完全に結びついているらしい。まあ、俺もそうだけど。
「おかしいけど、とりあえず今は会議かな」
そう俺が立ち上がりながら言うと、日鞠さんも頷いた。
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