第3話
「なりすましって断定しちゃうんだ」
「そう思っています。知っている人が対象ならば、余計に」
「非科学的なものだと信じたくない、と?」
「はい。まだなりすまし、つまり人間の仕業のほうがよくないですか?」
人間がなりすましているのかがいいか、霊的なものがなりすましているのかがいいか。どっちがいいかなんて分からない。人間のなりすましが身近になりすぎていたせいだろうか。
「なぜそんなことをするのか。そこが知りたいのです」
日鞠さんはそこで閉口した。なぜなにの解を貪欲なまでに求める彼女らしい理由だった。が、彼女が「知りたいのです」と言った手前そこで終わるわけがない。すぐに追及が始まった。
「ちなみに噂ってどんなのですか?」
「先輩のクラスメイトが本来、二重先輩がバイトしている時間帯にホテル街や繁華街で彼女を見た。友達が二重先輩と遊んでいたら向こうの通りで隣にいるはずの先輩を見かけた。他にもあるけど、だいたい今は繁華街が中心に目撃されてる。ただ、話しかけると逃げるんだって」
「逃げたんですか?」
「らしいよ、俺も実際見たわけじゃないけどね」
しばらく考え込み、日鞠さんは言った。
「探しましょう。なりすましている人を」
「ちょっと待って。本当かどうかも分からないのに?」
「見て、そして現実で話しかけた人がいる。それは見間違いではありません。他者のなりすましです」
常に彼女の話し方は迷いがない。もしかするとそうなのかも、と思わせる力強さがある。
「何より、冬夏くんもいると思ったから話しているんではないのですか?」
再び会話が止まる。誰かが上がってきたからだ。時計を見れば十五時五十三分。ホームルームも、友人たちとの駄弁りも終える時間帯だろう。早い話、一気に人が来る。
「や、冬夏。雑用?」
「そうなんだよ、助けてくれ、神様仏様
「その信仰心、素晴らしい。神として後でなんか奢るわ」
同学年にねぎらわれたり。
「先輩、資料どうぞ」
「ありがとう。日鞠さんも頑張って」
「ありがとうございます」
先輩と挨拶をかわしたり。
「冬夏くーんー! お仕事頑張って!」
「ありがとう」
委員とは関係のないファンクラブの人の乱入もあったり。
そんなこんなで、名簿チェックリストが残り二人になったころ。リストが埋まったことの満足感に浸る俺と、先輩同級生と話してぐったりとしている日鞠さん。
ギィ、と音を立てて視聴覚室の扉が半開きになる。顔を出したのは俺たちに仕事を任せた先生だった。
「疲れてるとこ悪いが、そろそろ会議が始まるぞ」
今までより速いテンポの音がする。すぐに走っている音だと気づいた。運動部だろうかと疑問とともに顔を上げた。音が遅くなることもなく、一定の速度でこちらに向かってくる。姿が見えた。運動部の人間なら、これから会議が始まるから走らないでと先生が注意をする。
――はずだった。
「え」
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