最終話(前)
*
黒須先輩の自白から十分後、俺は三階の廊下で二重先輩に会った。
世間話でもするかのように「どうだった?」と問いかけてきた先輩に、俺は正直に話した。手口も、動機も、思いも、すべて知った先輩は特に驚いた様子もなく「そっかー」とだけ返した。
それが少し悔しい。俺はポケットに手を突っ込んで、二重先輩から顔をそむけた。
「なので、あとはあなた次第です」
「この後輩は容赦なく突き放すなぁ」
二重先輩は不満げに唇を尖らせる。
「まあ、でもうん。黒須くんと冬夏くんの言うとおりだね。私が目を背け続けていたのが駄目だった」
「……あの、二重先輩。ひとついいですか?」
「よかろう。ご褒美なにでも答えるよ」
ありがたくお言葉に甘えるとしよう。
「先輩。黒須先輩をこの件から切り離そうとしたんですか?」
二重先輩が事件解決を望んだ理由。俺の中で、ずっと引っ掛かっていたことだった。学年一位の成績を誇る二重先輩のことだ。実ははじめから全部、わかっていたのではないだろうか? 囮をしている黒須先輩の存在と、その動機も。
では、それらを踏みにじってまで、ドッペルゲンガーの事件を終わらせようとした理由。それは黒須先輩にあるのでは?
自分達のために他人が犠牲になるのを黙って看過するほど、二重先輩は鬼ではない。元より、これは自分達家族の問題だという意識があったのかもしれない。
どっちの理由で動いたにせよ、二重先輩自身がなりすましの件を真正面から追求しようものなら、黒須先輩は全力で否定するだろう。家族である二重先輩にバレたら、妹さんに伝わるのも時間の問題だから。
――この件を第三者の手によって、解決に導かなければならない。
二重先輩はそんな結論に至った。では、どうするか。――好奇心旺盛な探偵を、自分の代わりに表舞台に立たせるしかない。十夜は「巻き込まれたのは偶然」と口にしたが、きっとそんなことはない。日鞠 白夜でなければダメだったのだ。
「冬夏くん」
先輩はいたずらっ子のような笑みを浮かべた。
「――君、私を買いかぶりすぎだよ」
*
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