第15話
「二重ちゃんと黒須くん、付き合う前は結構、険悪でさぁ。ていっても、一方的に黒須くんが突っかかってただけなんだけどー。二重ちゃんから告白したらしいけど、どこ好きになったんだろうね」
「関係マイナスから付き合うなんてことあるんですね」
「少女漫画みたいだよねー!」
何やら楽しそうな様子だが絶対、恋愛的な感情ではないと俺は思っている。
「黒須先輩から、二重先輩のお話って聞きます?」
「それが全っ然。なんだったら付き合う前のほうが『僕は絶対アイツを超えるんだ』って話してたし。今は、なんかどうでもよくなっちゃった感じなのかな。話が出てこなくなっちゃったんだよね。出てくるとしたらドッペルゲンガーの話を聞いたか、とかそんな感じ」
「そうなんですか?」
「うん。それまでめちゃくちゃライバル視してたのにね、謎」
相原先輩は首をかしげている。
「あ、そうだ。さっき黒須くんのこと、脚本担当って言ったじゃん。だからかな、ドッペルゲンガーの話に興味持ってて」
二重先輩と話をしていた時も似たような発言があった。自分の彼女が今まさに巻き込まれているのに、それを好奇心のネタにするなんて最悪じゃないか。俺はそう思ったが、創作をする人間は皆そうなのだろうか。
「噂の傾向を調べてるみたいだけど、聞きたい? 私も話半分だったから、うろ覚えだけど」
「ぜひ」
感情と情報。
どちらを優先すべきかなんて分かり切っていた。
「いいよ」
相原先輩はホワイトボードを持ってきた。本格的な講義になりそうだ。
「最初の、五日間ぐらいかな。そこまではホテル街が主に目撃場所だったんだけど。八日目ぐらいには繁華街での目撃例が多くなったんだって。目撃例の多い時間帯は十九時から二十時半まで。こんな感じだったかなー」
ふんふんと頷いてみるが、目撃場所の違いがあまりピンと来ていない。どちらも駅に近いし、それなりに治安はよろしくない。あまり変わらないのではない気がするが。
ふと時計を見る。いつのまにか十七時になろうとしていた。「時間も時間だからそろそろ引き上げようか」と日鞠さんに小声でそう促すと、彼女も頷いた。去り際、俺はもう一度、部室を見回して気づいた。
「あれ」
「どうかしたー?」
まだ掃除をするから、と相原先輩は残るらしい。雑巾を手にした先輩が俺の方を見た。
「いや、制服あるんですね」
壁際の段ボールの上、つっぱり棒から下げられたハンガーにかかっているのはうちの制服だ。女子と男子、どちらもある。
「あー、あれ? 寄付」
「寄付?」
「先輩が置いてったんだよ。ほら、卒業後に制服なんていらないし」
確かに俺も中学時代の制服は置いてある。クローゼットから出したこともない。
「そうですね、俺もいらない気がします」
そこから二、三、会話を交わして俺たちは今度こそ、演劇部の部室を後にした。
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