第14話

「キャー! あなたが冬夏 秋人くん!?」


 自己紹介をした瞬間これだ。双海先輩と二木先輩の再来である。

 演劇部の部室は生徒会室同様、小ぢんまりとした印象を受けた。右手には衣装や段ボール、左手には本棚やホワイトボード。長机をはさんでパイプ椅子が計四脚。窓は開け放たれ、時折入ってくる風にカーテンが揺れていた。物珍しさについ、きょろきょろとしてしまう。棚にはウィッグが入っていたり、アクセサリーが入っていたりとなかなかに本格的だ。

 部室に一人だけいた女生徒――相原あいはらと名乗った。――は、立ち話もなんだからと席に座るよう促してきた。お言葉に甘えて二つ並んだパイプ椅子に座る。


「入部希望かな!? 君ぐらいの美形ならすぐに主役になれると思うけど」

「あー!」


 紙とペンを取り出そうとする勢いだったので、俺はつい声が大きくなった。


「いえ! そういうのではなく」

「あらそうなの」


 露骨に残念そうな顔をされた。演劇部に所属しているとだけあって、コロコロと表情が変わる。


「で、そっちの子は彼女?」

「いえ。違います」


 力強く否定しておく。日鞠さんは特に意に介する様子もなく「お話を伺いたいのですが、今お時間よろしいでしょうか?」と問いかけた。


「いいよいいよー、私、ここで掃除してただけだしさ!」


 相原の上履きのラインは赤。つまり、生徒会長と同じ三年生。


「相原さん。ここに属している生徒会長さんについてお聞きしたいのですが」

「生徒会長? あぁ、黒須くろずくんのこと」


 あいつの苗字をここで知った。


「その、どういう方なのかを知りたくて」


 日鞠さんにしてはずいぶんぼやけた問いかけだ。相原先輩も少し困ったように首をかしげている。代わりに俺が口を開いた。


「部長なんですよね、やっぱり人望とかあるんですか?」

「あー、あはは」


 相原先輩は苦笑いを浮かべた。


「どうだろ。まあ、彼しかいなかったってのも、事実だしね」

「相原先輩は、立候補しなかったんですか?」

「私? とんでもない!」


 ぶんぶんと顔の前で手を振られた。


「やれ人をまとめるとか、コンテストに応募するとか、できないんだよね」

「はあ」


 性格的な理由なんだろうか。よく分からない。


「黒須くん、脚本担当なんだけど、スパルタでさぁ。新しく入った部員の子とかにも厳しいわけ。面白いんだけどね、脚本は」

「自他ともに厳しい方なんですね」


 日鞠さんの言葉に、相原先輩は頷いた。


「そ。最近は抜かされちゃったけど、学年一位の成績だったよ。てか、そうじゃないと気が済まないタイプ。二重ちゃんと同じ有名な大学狙ってるらしくて最近やけにピリピリしてるんだよねぇ」


 あ、と相原先輩は手を打った。


「逆に妹ちゃんとは仲良しだよ、去年の文化祭の時に意気投合したらしくってさ。連絡先まで交換してるし!」

「へえ」


 二重先輩より彼女っぽいことをしているじゃないか。


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