第12話


「あーしさ、目、いいんだよね。両目一.五。それに歩き方までマジでそっくりなんだよ? いや、そっくりっていうか、瓜二つっていうか? とにかく、完璧にそうだった。じゃないと琴乃ことの――二重だと思って話しかけに行こうと思わないって」


 二重先輩は、二重 琴乃というらしい。新しい情報だ。

 それにしても客観的な証拠はない以上、見間違いと判断したほうがいいだろうか。俺は日鞠さんのほうを見る。やっぱり、何を考えているかは分からない。日鞠さんは先の言葉の意味を問うた。


「では、ドッペルゲンガーの噂の元凶が双海先輩というお話は?」

「友達に相談してさ。生徒会長にも話、聞いたわけよ。彼女のことだし、もしかするとその日あーしも知らない行動を知ってるんじゃないかって」


 言いながら双海先輩は顔をしかめた。


「自分も彼女がその日はバイトしていることしか知らない、だって。で、そこで話が終わると思うじゃん。なんかさー、根掘り葉掘り聞かれて、ドッペルゲンガーじゃないかって」

「オカルト好きなんですね」

「あんな根暗と琴乃がなんで付き合ってんのか、ホントわっかんないんだよねぇ」


 呆れたように二木先輩が言う。


「マジ、性格も、琴乃のタイプともかけ離れてるしさ」

「へー、二重先輩の好みのタイプってどんな感じなんですか?」


 なんとなく聞いてみる。俺も、やっぱりあの小柄な生徒会長が先輩の彼女だと信じたくないのかもしれない。


「自分より身長高くて、頭がいい人。あと、ある程度金持ち」


 高校生が求める水準ではない気がする。


「共通の趣味があるとか」

「まさか」


 俺の案は二木先輩に鼻で笑われた。


「ナイナイ。あっちは演劇部、二重は帰宅部だよ? 同じクラスでもないのにマジどこで知り合ったんだろうね」

「住む次元が違うっていうのかなー。あーしは付き合ってるって聞いたとき、は?って思ったよ。一方的に琴乃がやっかまれるような間柄だったし」

「そもそもデートなんてしたことないんじゃない? そういう話聞かないしな。あの子も付き合い悪くなったし。束縛ってやつ?」

「のろけも聞かないってことですか?」

「聞かないね。どっちかっていうとしたくない、的な?」

「生徒会長に相談した結果、噂が広まった、と?」


 日鞠さんが会話に割り込んでくる。話が軌道修正された。


「そそ。ま、教室で話してたし、誰が聞いてたかわかんないけど。どっかの馬鹿が面白半分で流したんでしょ。あーしのただの見間違いを」


 そこまで話し終えると、双海先輩は紙パックのジュースを飲んだ。


「ホテル街で見かけた二重先輩は、そこまで本物の先輩と似ていたんですね」

「ん。なんかさぁ、歩き方って一目見て分かるじゃん。あの人だ! って。理屈知んないけど」


 確かに、そういう時はある。知人友人知り合い、深ければ深い関係の程、街中で姿を見つけやすくなる。けど、双海先輩の主観なのは変わらない。話を次に進めたほうがよさそうだ。俺は次の質問にうつった。


「二重先輩が三人とも三人に間違われるって言ってましたけど、本当ですか?」

「それはマジ」


 けらけらと笑いながら、二木先輩が答えた。


「超マジ。つい昨日だって、あたし双海に間違われたし、同じバ先だから仕方ないけどさぁ」

「アルバイトの時間帯も同じですか?」


 日鞠さんの質問に、二木先輩は同意を示した。


「そ、双海と時間も一緒。あたしが誘ったの」

「二重先輩とは違うんですよね?」

「うん。でも、大体高校生が働く時間なんて十七時から二十三時のどっかでしょ? あ、うちらは月水金だからね」

「なるほど」


 目線を右に向けた。特に何の変哲のない学校の机が目に入る。二重先輩のアルバイトの時間とほぼ被っているな。


「この子とさー」


 言いながら双海先輩を指さす。


「琴乃とは中学部の時からの付き合いなんだけど。その時からずっと。高校生になって化粧をするようになってからはさらに似た。化粧とか服は参考にしてる芸能人とか雑誌が一緒だからだと思うんだけど」

「ドッペルのウワサ流れ始めてから、琴乃に間違われる確率マジで高くなったんだけど」

「それ、あたしも」

「お二人とも、二重先輩に間違われることって、どう思われてますか?」


 日鞠さんの問いかけに、二人はきょとんとした顔をした。


「どうって?」

「許せるか許せないか、不快か嬉しいかですね」

「あーしは考えたことなかったなー。別に。何とも思わないよ。あー、また見間違えられたなーぐらいで」

「あたしはちょっと嬉しいけどな。ま、不快ではないかな。もう日常の一部的な?」

「ありがとうございます」


 彼女は礼を述べ、うつむき加減だった顔を上げた。



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